やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

河野外相が理解できて宮島大使が理解できない小国の問題(2)

日本の官僚は小国の重要性が理解できないのだ。

国交省の元審議官で、前笹川平和財団会長だった羽生次郎氏は

「早川さんよかったねえ。中国のおかげで小さな島々に笹川さんが関心を持たれて、仕事ができたじゃない。」と私に呟いた。

ああ、哀れなるかな、東大卒の官僚よ。

笹川陽平氏はずっと前から島嶼国を真剣に考えていた。だから私は26年間も続ける事ができたのだ。一人で国際政治や開発問題に疎いおじさん、おばさん達を相手に戦えるわけないじゃないか!

残念ながら外務省もそうであった。小国の優先度は低いのである。大国としてのプライドがないのだ。

それでも冷戦時代は外務省の「ベスト・アンド・ブライテスト」が大洋州課課長になっていたのでそうである。と、これは渡辺昭夫先生から伺った。

ところで、そんな外務省の様子が安倍政権でガラリと変わった気配を感じた。

2014年の安倍総理パプアニューギニア訪問あたりからであろうか?

2015年には薗浦政務官がバヌアツのサイクロン支援に飛んだ。外務省がバヌアツのことを何も知らないのはわかっていたので、情報を提供した。薗浦健太郎議員は今総理補佐官として、引き続き小国を積極的に訪問している。

そして昨日の河野外相の演説だ。

「第二に、国際スタンダードにのっとった質の高いインフラ整備などによる連結性の向上等を通じた経済的繁栄の追求」

これは小国にも適応されると考えている。河野外相はご自身のブログで下記のように小国へのインフラ支援の重要性を述べている。長くなるが引用する。

モルジブの直面している問題は、中進国の罠とよばれるものです。

モルジブは観光産業の発展もあり、一人当たりGDPが8000ドルを超えました。しかし、そのためにOECDの基準により、日本や欧米などのOECD加盟国からは他の所得の低い発展途上国に比べ,ODAによる支援を受けることが難しくなりました。

そのためにモルジブOECDのルールの適用を受けない国からの支援にも頼る必要が出てきたのです。

途上国が努力して経済発展を遂げても、さらにその次のステージに登るためにはインフラの整備など、様々な資金需要を満たさなければなりません。

これまでの国際システムでは、その需要をうまく満たすことができませんでした。だからこそAIIBのような新しいシステムを中国が創り出すことになったのです。」

衆議院議員 河野太郎公式サイト「パキスタンスリランカモルジブ出張」 より

http://www.taro.org/2018/01/パキスタンスリランカモルジブ出張.php

パラオや他の太平洋島嶼国も全く同じ状況だ。

さらに同ブログの「最後に行ったのは?」では今年の島サミット参加国の内11カ国に外相が一度も尋ねていない事が指摘されている。しかも最後に日本の外相が太平洋島嶼国を尋ねたのは倉成外相の時で80年代だ。

http://www.taro.org/2018/01/最後に行ったのは?.php

トンガのコロニアル調のインターナショナルデートラインホテルがある日、中国語だらけで、装飾も素っ気なくなっていた。故ツポウ5世は私に「この予算で、この工期で受けてくれるのは中国しかいなかったからね。」と。

トンガサットの運営から何から何まで、トンガ王国が中国に飲み込まれていく様子を目の前で見てきた。トンガ財務省の知人の話では。トンガ王国の国家財政は健全だがお金不足なのは王室財政だけとのこと。(皇太子ツポウ5世が国防・外務大臣を兼任していた)悪い事にバブルが弾けた日本は、日本贔屓だったツポウ5世を特別扱いしなくなった。赤坂のプリンスホテルに泊まれなくなったと、これもツポウ5世から伺った事がある。

中国が太平洋島嶼国に進出する要因は、まさに国際的な開発援助政策が作ったのである。小国の実態を全く無視して。。自ら蒔いた種、とも言える。

中国の支援に引きずり込まれていく島嶼国のリーダー達を90年代から見てきた私の証言である。