やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

沈む島と沈む人間とどちらが重要なのか?

100人近くの犠牲者を出したキリバスのフェリー事故を追っていて強く思ったのが、なぜ世界は、メディアは「島が沈む」ことに関してはヒステリックに反応して国連まで動くのに、海に沈んだ100人近いキリバス人の命に反応しないのか、という疑問だ。

そんな中で島は沈まないという、前からある科学的議論が紹介された。

'Sinking' Pacific nation Tuvalu appears to be growing

http://www.ibtimes.co.uk/sinking-pacific-nation-tuvalu-appears-be-growing-1660174

この議論を展開する科学者は、島は沈まないのだから移住する必要ないと、自分の専門分野を離れて主張している事は問題だと思う。(ここは話が逸れるから書かないがBBNJの議論と全く同様なのだ)島が沈もうが沈まなかろうが、島での生活は社会開発は困難を伴うのだ。

それではなぜ、キリバスのトン大統領が、昨年亡くなられたマーシャル諸島のトニー・デブルム外相が世界に「島が沈む、温暖化のせいだ」と叫び続けたのであろうか?

90年代から島嶼国の様子を観察してきた。

この温暖化と海面上昇の話を始めたのは欧米諸国である。これがお金になる事に、そしてだからこそ世界の注目を惹き付ける事にトン大統領は、デブルム外相は気がついた、のだと思う。

トン大統領には産経の千野さんをお連れしてキリバスでお会いした事がある。

千野さんは島が沈むのか、という質問され、トン大統領は「島が沈む以前の問題である。」と答えていた事が記憶に残っている。

しかし、島嶼国の本当の問題(即ちフェリー事故が起るあらゆる社会的要因)を理解できない世界のジャーナリストはこのトン大統領が抱えるキリバスの、島社会の問題を理解しないまま、いや理解して支援の必要性を訴える事ができないのだ。それは上記の島は沈まないから移住の必要はない、と言ってしまう科学者と共通する鈍感さ、無知、非人間性なのである。

その事を、トン大統領は、デブルム外相は気づいたのだと思う。

しかも、気候変動でクリーンエネルギーという名の大きな投資が行われる。島嶼国が沈む、というストーリーは先進国のCO2排出責任を明確にし、投資機会につながるのだ。国連も度重なる国際会議と新たな予算措置で真剣になる。

さらに途上国は「自分たちは犠牲者だ。」と主張する事で頭を下げる必要がなくなる。

みんがハッピーだ。

しかし、フェリー事故は気候変動予算で予防できない。キリバスのフェリー事故を防止する話は、先進国の責任でもないし、先進国の投資案件にもならない?原因が明確だからだ。

よって、グローバルアジェンダとして「 沈む島と沈む人間」では沈む島の方が断然重要なのである。

イエロージャーナリズムとイエローNGOのみなさん、どう思いますか?