やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

『国際海洋法の現代的形成』田中則夫著(読書メモ)その7

「第2部深海底制度の成立と展開」にある「第6章国連海洋法条約第11部実施協定の採択」p. 188-216

1996年に出た論文で、1995年の世界法学会で田中先生が報告された内容である。この学会のテーマは「人類の共通利益の追求」

p. 189 1982年に採択された国連海洋法条約は深海底制度11ぶとその関連付属書について先進国の不満を抱えたまま、先進国の条約参加がほとんどなかった。1990年国連事務総長のデクエヤルの呼びかけで実施協定採択の交渉が開始。

p. 190 実施協定交渉の背景には採択から8年たった経済的、政治的変化がある。1.商業ベースの開発が遅れて2010年以降に。2.深海底から得られる鉱物資源の市場価格低迷、3.ソ連・東欧諸国の崩壊で市場経済が世界的規模になってきたこと。

p. 191 このような背景から、途上国がかつては考えられなかった妥協的な態度を見せるようになった。

p. 199 効力の発生が確定している条約を実施協定でどのように修正することが可能か?条約法に関わる理論問題の考察である。

p. 201 理論上は、条約の締約国は協定を拒否しうるし、そうすることは決して奇異なことでも、国際法の原則から逸脱することでもない。しかし、仮に国連海洋法条約の締結国のすべてによって、実施協定が受け入れられて行く方向が明確になるのであれば、今回のケースは新しい合意の形成手段の先例になる。

p. 206-207 ここで実施協定とCHM原則の関係が議論されている。実施協定によってUNCLOS第11部にあった、生産政策に関する規定、技術移転に関する義務、が事実上撤廃。機構の規制権限が弱まり、あるいは廃止された。これによってCHM原則は凋落したのか?

p. 208 このような変化の背景に国際環境の違い(1.商業ベースの開発が遅れて2010年以降に。2.深海底から得られる鉱物資源の市場価格低迷、3.ソ連・東欧諸国の崩壊で市場経済が世界的規模に)が影響を与えたことが大きい。驚くほど。

p. 209 第11部の背景には1974年のNIEOの影響があった。しかし条約採択後の経済的・政治的状況が変更を余儀なくすることとなった。深海底制度の存立基盤を大きく変動したことが実施協定採択に繋がった。今後の諸国の実行と協定との生合成を分析する必要がある。

法律より、現実の必要性、ということだろうか。途上国の利益、ということか。