やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

『海洋の国際法構造』- 豪州の日本排除と大陸棚

公海におけるビキニ水爆実験の国際法的議論がされているということで手に取った小田滋『海洋の国際法構造』(有信堂、1956)。1950年代の海洋法に議論は特に日本の漁業の関係で興味深く、どんどん読み進めた。最後は「第4章海底資源の開発」だ。大陸棚の議論である。

最初の節は「7. 定着漁業の法理」としてオーストラリアの大陸棚宣言がケースとして取り上げられている。ここに日本の真珠貝漁業が絡み日豪交渉となったのだ。オーストラリア北部を開拓したのも日本人であった。1952年すなわち平和条約締結後日本の漁業者は再び同地を目指したのである。

翌年1952年から日豪漁業交渉開始。1953年にはオーストラリア総督(英国女王代理のことだと思う)が「信託統治下にあるニューギニアに続く大陸棚および地下に対して、その天然資源を探索・開発する目的で主権的権利を持つことを宣言」p. 154 したのである。明白な日本排除である。

次に国際法的な議論が紹介される。その中で国際法学会、わけてもイギリスの主張は、真珠貝などの定着漁業は漁業の性格を否定し海底地殻の支配に従うもの(p. 159)とし、海底面が占有されるというアイデア国際法の学説上根強い伝統であったことが多くの議論を引用して説明されている。これに対し小田教授は誤った観念であり、今日の定着漁業の問題や大陸棚の問題を混乱に陥れた、と指摘する。P. 166-167 そして定着漁業が一般漁業と区別されるべき論理的かつ歴史的根拠がないにも拘らず、国際法が無意識に受け入れてきたことも指摘している。P. 172

最後の結びで小田教授は「よしんば大陸棚に沿岸国の権利がおよぶことが是認せられるとしても、なおそのことは真珠貝漁業などにはまったく無縁のものであるといわなければならない。」p. 174 と強い口調だ。

多分小田教授本件で日本政府の立場を擁護する役割を持っていられたのではないか?そしてこの論文が書かれたすぐ後、1956年の国際法委員会では定着漁業の概念の多義性が意識されるようになった、と追記がある。