やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

島サミット特集:安倍総理スピーチの分析評価ー歴史的海洋の権利

「これから力を入れたいのは、第一に、海の秩序に法の支配を打ち立てることです。古来、私たちの海の恵みをもたらしてくれた太平洋。その太平洋で我々が昔から持っている権利を、国の大小に関わりなく守ってくれるのが法の支配です。」

英語では 

"Where Japan wishes to place emphasis from now is, first of all, in establishing the rule of law in the maritime order.

Since ancient times, it is the Pacific Ocean that has given us blessings of the sea. And it is the rule of law that gives protection to the nations, big and small, for their inherent rights."

太平洋・島サミット(PALM8)首脳会合における安倍総理の冒頭発言 より

https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/statement/2018/0519speech.html

島サミットの安倍総理スピーチを勝手に分析評価している。

過去のスピーチを引っ張ってきて比較しなければ明確に言えないが、今までのスピーチと全く違うレベルだと思う。かなり草稿メンバーが充実し、勉強している。

「古来」「その太平洋で我々が昔から持っている権利」という箇所を読んで、えっ!そんな歴史を持ってきたら、伝説や亀や鮫のトーテム信仰まで持ち込んで自分たちの海の権利を主張する太平洋島嶼国をまた増長するのでは?と心配になった。

ちょうど大学の浅野教授の授業で南シナ海の件を勉強していたため、スピーチの発言の隠された意図がわかった!

中国の南シナ海、九段線の話である。仲裁裁判所は九段線について「資源について中国が主張する歴史的権利には法的根拠はない」としている。この安倍総理のスピーチはそのことへの当てつけ、ではなかろうか。

太平洋島嶼の人々、オーストロネシア語族は太平洋とインド洋を数千年前に自由に行き来していた歴史がある。それは考古学、言語学などで証明されているのだ。中国の九段線の主張とは違って!

しかし、太平洋島嶼国は海上を通航していただけなので、インド太平洋の「海洋の歴史的権利」を主張しだすとは思えない。

今回の島サミットにインド太平洋のコンセプトを後押ししたのは自分である。安倍政権も島嶼議連もその意識はあったが、きっかけが必要だったのだ。

実は一番私が言いたかったことは、天然資源や海洋を領土の隣接性を根拠に線を引いてどんどん囲い込もうとする動きは、決して太平洋島嶼国の伝統でも歴史でもない、ということだ。領海等、テリトリー主義の前に、魚、人間、海洋、気候等は人間が線を引いたテリトリーを超えてに行き来し、人間の方がその動きに合わせ応じて空間を認識し、動いていたはずなのだ。

数千年前、インド太平洋の海をネットワークしたのは太平洋島嶼国の人々だが、約150年前太平洋の海を面として、すなわち遠洋漁業を開拓したのは日本人、しかも安倍総理の地元、山口や瀬戸内海、紀伊の海人であったのだ。

それも安倍総理に言って欲しかった気もするが、ちょっと問題が複雑なので、これはしょうがない、か。