やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

島サミット特集:北朝鮮を支える太平洋島嶼国の便宜置籍船

今回の島サミットが画期的だった理由の一つにこのブログでは散々取り上げている、太平洋島嶼国の主権ビジネス、その中でも北朝鮮を支援している便宜置籍船の件が首脳宣言に明確に書き込まれたことだ。下記の部分である。

「特に,首脳は,いわゆる「瀬取り」を含む北朝鮮による制裁回避戦術に対して深刻な懸念を表明し,開発パートナーによる太平洋諸島フォーラム島嶼国に対するこの取組への支援を得ながら,現時点で船舶登録上,自国が旗国となっている貿易又は漁業に従事する北朝鮮船舶の船舶登録の解除を含め,関連の国連安全保障理事会決議に従った取組を加速させていくことの必要性を強調した。」

第8回太平洋・島サミット(PALM8)首脳宣言(福島県いわき市

https://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/ocn/page4_004026.html

便宜置籍船に関して本を見つけた。非常に面白い。武城正長著『便宜置籍船と国家』(御茶の水書房、2013)である。

便宜置籍船の歴史からその詳しい発展、運営について書かれている。

特に小国が便宜置籍船ビジネスを行う理由に、その利益が少ないため行政費用を抑える、すなわち「面倒をみないこと」(16頁)「主権を行使しながら実行的管轄義務を十全に果たせない」(25頁)などを指摘している。

わかっていたが、このように書かれるといささかショックである。すなわち太平洋島嶼国政府は旗を貸した船が何をしようが、テロ活動をしようが、責任を持たないことを前提しているのだ。確信犯である。

それだけではない。便宜置籍船は日本や欧米諸国の海洋人材を失った。途上国の安い労働者がそれに変わったのだ。しかしこれら労働条件はひどいもので、中には船員ごと船をどこかの港に廃棄するケースもあるという。

欧州の海運国は自らの首を絞めるようなこのような制度は支援しなかったが、この便宜置籍船を進めた背景にあったのが米国の軍事戦略 Effective US Control Shippingであった、ということも一章を割いて詳細が書かれている。

この本、再度借りてじっくり読み込みたい。小島嶼国、海洋国家ではない沿岸国の独立とはこのような世界的な問題を引き起こす結果となっているのだ。