やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

ダイヤモンドセキュリティ構想と自由で開かれたインド太平洋

f:id:yashinominews:20210623074949p:plain
 この4、5月に発表する機会をいただいた海洋議連・島嶼議連で使用した当方のパワーポイント資料から

2012年に発表された安倍総理のダイヤモンドセキュリティ構想は「自由で開かれたインド太平洋戦略」と名称が変わったのかもしれない。 その原点は下記の2007年の「二つの海の交わり」と言うスピーチである。引用したい。

皆様、私たちは今、歴史的、地理的に、どんな場所に立っているでしょうか。この問いに答えを与えるため、私は1655年、ムガルの王子ダーラー・シコー(Dara Shikoh)が著した書物の題名を借りてみたいと思います。 すなわちそれは、「二つの海の交わり」(Confluence of the Two Seas)が生まれつつある時と、ところにほかなりません。 太平洋とインド洋は、今や自由の海、繁栄の海として、一つのダイナミックな結合をもたらしています。従来の地理的境界を突き破る「拡大アジア」が、明瞭な形を現しつつあります。これを広々と開き、どこまでも透明な海として豊かに育てていく力と、そして責任が、私たち両国にはあるのです。

インド国会における安倍総理大臣演説、「二つの海の交わり」Confluence of the Two Seas、平成19年8月22日 より

http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/enzetsu/19/eabe_0822.html

 

ダーラー・シコー(Dara Shikoh)の「二つの海の交わり」(Confluence of the Two Seas)が具体的に何を指すのか検索してみたが見つからず、下記のMonika Chansoria博士の2ページのペーパーがあった。この「二つの海の交わり」が安倍総理のスピーチに出て来た背景には内閣官房副長官補 兼原信克氏と内閣官房参与の谷口智彦氏の提案があったと言う。

"Abe’s bid to forge this vision began in his first term as Prime Minister, when he addressed the Indian Parliament in August 2007. The Japanese leader was inspired by the most famous authored work of Mughal prince Dara Shikoh, the book Majma‐ul‐Bahrain (The Confluence of the Two Seas; published 1655), which became the founda on and tle of Abe’s speech and vision for Indo‐Japanese rela ons — that of nurturing an open and transparent Indo‐Pacific mari me zone as part of a broader Asia. In fact, the speech “Confluence of the Two Seas” underscored the pivotal advisory role of Deputy Chief Cabinet Secretary, Kanehara Nobukatsu, and special Cabinet Advisor Taniguchi Tomohiko. The concept of a “broader Asia” is fast transcending geographical boundaries, with the Pacific and Indian Oceans’ coalescence becoming far more pronounced and evident than ever. In order to catch up to the reality of this “broader Asia”, Prime Minister Shinzo Abe referred to Japan undergoing “The Discovery of India” — implying rediscovering India as a partner and a friend."

Monika Chansoria, JAPANESE INVESTMENTS ARE INSTRUMENTAL TO INDIA'S ACT EAST POLICY, Asia Pacific Bulletin, No. 385

https://www.eastwestcenter.org/publications/japanese-investments-are-instrumental-indias-act-east-policy

この4、5月に発表する機会をいただいた海洋議連・島嶼議連で兼原信克氏も谷口智彦氏も多分ご存知ない事を発表した。ダーラー・シコーの「二つの海の交わり」が多分観念的だったのに比べ、ダイヤモンドで結ばれたはるか西のマダガスカルと、はるか東のイースター島(南米まで行ってサツマイモを持って帰って来た可能性もある)南はオーストラリアより先ニュージーランドまでの、広大な2つの海を結んだのは太平洋島嶼国の人々の祖先、オーストロネシア語族である。

だいたい三千年から千年前の話である。 高度な航海術を持つ彼らは数百キロ、数千キロを行ったり来たりしていたのだ。 動植物、人、工芸品、いろいろなものを交易しまさに「自由で開かれたインド太平洋」の先駆者であったのだ。このオーストロネシア語族は多分日本にも来ているであろう。私は神武もオーストロネシア語族であったのではないか、と想像している。

安倍総理のダイヤモンドには14カ国の主権国家である太平洋島嶼国がしっかりカバーされている。 「ダイヤモンドセキュリティ構想」がまたは「自由で開かれたインド太平洋戦略」が日米豪印で主導される事は賛成するが、良くも悪くも、広大な海洋、太平洋のEEZを管轄する主権国家の小島嶼国の存在を忘れてはならない、と思う。

その上で来年の第8回島サミットの海洋安全保障(広義)が議論されるべきであろう。

 

<参考資料> このペーパーには太平洋の事は出てこないが、モディ首相は数年前、インド人が人口の半分を占めるフィジーを訪問している。太平洋島嶼国の重要性は、すぐに理解できる相手のはずだ。

Titli Basu, India-Japan and ‘Confluence of the Two Seas’: Ten years on, September 13, 2017

https://idsa.in/issuebrief/india-japan-and-confluence-of-the-two-seas_tbasu_130917