やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

ビキニ水爆実験は「自由世界」の「安全」のため

10. ビキニ水爆実験をめぐるマクドーガル氏の理論p.250-266

第5章「公開における水爆実験」、小田滋『海洋の国際法構造』(有信堂、1956)

 

1954年3月のビキニ水爆実験については日本国内で多くの議論があったが、翌年1955年から外国の論文も増えてきた。日本に好都合な内容のマーゴリス氏の論文が和訳されているが(読んでみたい)マクドーガル氏はまた別の見解を示している。なお同書のはしがきによればマクドーガル氏はエール大学の教授で小田教授の指導教官のようである。

マクドーガル氏の論調はビキニ水爆は合理的であり、米国のみならず世界の「安全」を守るためとの政治的な主張のように思えた。最初にソ連との軍備競争に打ち勝つ事が目的と明言している。

興味深いのが、3つの議論、すなわち原子力兵器使用の違法性、海洋国際法信託統治の問題のうち、海洋法と信託統治の意味を議論している箇所である。

海洋法に関しては国際条約だけでなく、国際的慣習や「衡平や善」に基く考慮をあげている。「衡平や善」の判断基準は?

海洋法に関する議論は水爆実験をした米国への批判に対し個々に詳しく反論されているが、ここは飛ばす。

私が強く関心があるのが信託統治についてである。ここで筆者は信託統治が戦略地区として「安全」が強く働いていることを明確にする。米国の安全である。ミクロネシアの安全ではない。米国特有の概念であり、そのために米国は日本と戦ったのだ。この概念は戦前の委任統治にはない。少なくとも国際連盟規約の文言には。

最後にマクドーガル氏は水爆の使用は恐ろしいことだが安全な世界秩序ができるまで自由世界は武装を続けなければならない、と解く。50年代の冷戦の様子を知らないが、もしかしたら冷戦を煽ってきたのは米国だったのではないか?