やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

海洋法条約を巡る中国のジレンマ

英国のジャクソンヘンリーソサエティ、アジア部長が執筆した南シナ海と英国の対応に関する論文 THE SOUTH CHINA SEA: WHY IT MATTERS TO “GLOBAL BRITAIN” の引用文献に海洋法条約を巡る中国のジレンマを扱った記事があった。

米国在住の執筆者Zheng Wang教授は天安門事件を扱った書籍を出版しており、中国政府に対して批判的なのではないか、と想像する。日本語にも訳されている。『中国の歴史認識はどう作られたのか』

 

1973年から1982年、10年の年月をかけて討議された国連海洋法条約に中国はどのような姿勢で臨んだのか? 最近(この記事が書かれたのが2016年)になって中国は海洋法条約から離脱すべきとの声が高くなっている、という。

1971年に国連の加盟した中国にとっては初めての案件になったという。当時の中国政府代表Ling Qingの記録が紹介されている。文化大革命の傷がまだ癒されていない中国は指導者から3つの基本方針を示されていた。

1 米国、ソ連の覇権反対。be anti-hegemony (meaning anti-U.S. and anti-USSR); 

2 途上国支援。support the Third World;

3 国益。protect the national interest.

 

特に途上国こそ、台湾を抑えて中国が国連加盟することができた恩人であるのでその恩を返す必要がある、と。(国連海洋法条約にそんな歴史的背景があったとは驚きだ)

国連海洋法条約のEEZは、自ら海洋を管理も開発もできないはずの途上国の資源獲得があるが、これを米国、ソ連などの覇権国が反対していた。(日本も反対)中国はこの2つの対立を見ながら結局途上国側に立つことに。同時にこのEEZ制度が中国にとって不利であることも気がついていた。

Liu Fengの下記の本によれば、中国は海洋法条約の最大の敗者である、という。18,000キロの沿岸線を持ちながら地理的制約を受けEEZは限られてしまう。

baike.baidu.com

海洋法条約協議への参加から40年を経て、フィリピンとの裁判を棄権することを中国は選択した。40年というのは国際法、国際条約が実際に国益にどのように影響するのか学ぶにはちょうど良い長さである。

 

海洋法条約を学ぶものとして、この議論は初めて知った。海洋法条約のEEZ制定にまさか中台の問題が関係していたとは!