やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

立作太郎と横田喜三郎 メモ

国際法は海のように広く深い。
海洋法だけで息切れしているのに、戦時国際法、国際人道法などというものがある。これを昨日FBFに聞かれて半日が潰れしまった。仮にも国際法の博士課程に在籍し答えられないのは、私のつまらないプライドが許さない!


横田喜三郎が戦前の戦時法を戦後の国際法の教科書からすべて削除した、とのこと。片桐康夫さんのペーパーがウェブにあったので読んだが横田の理論上の一貫性はある、という議論だった。何をどのような理由で削除したのであろう?

 

第1章 横田喜三郎の戦後日本の安全保障論 片桐庸夫
https://core.ac.uk/download/pdf/46896315.pdf

横田はリットン報告書を受け入れる立場でそれを表明したため軍部始め多くから命まで狙われる境遇にあったのだ。それが戦後、吉田の日米安保を支持する。片桐論文は横田の言説を追いながら、そこに立場の変遷ではなく一貫性があったことを見出している。日本の平和憲法を維持するためであったが、世界情勢が代わり、横田の立場も変わって行く。
片桐氏はこのペーパーを書かれた時期に議論されていた安保法案の議論に重ねて、最後に第9条ありきの議論は横田の意図と違う、と締めくくっている。以下に引用しておく。

「しかし,この度の安倍晋三政権下における安保関連法をめぐる国会での議論やメディア・世論の動向をみる限り,遺憾ながら横田の思いとは別に,第九条自体が先にありきとなり,わが国の安全保障の検討を硬直化させる結果を招いているといわざるを得ない。横田は,草葉の陰からどうみているであろうか。」

 

そもそも戦争が違法になった背景ってなんだっけ?

引き続き「戦争の違法化とその歴史」(三石善吉)を読んだ。この分野も深海の果ての如く、良く知らない。
ウェブでアクセスできます。
https://www.tsukuba-g.ac.jp/library/kiyou/…/03.MITSUISHI.pdf

戦争が違法であると言い出したのは、またもやルソー。その前にサン=ピエールの「永久平和論」があった。これもルソーが抜粋して有名なったようだ。そしてルソーに感化されたカントの「恒久平和」。フランス革命、ポーター条約。そしてベルサイユ条約。

アジテーター、ルソー。

自決権同様、この戦争の違法化がつまりルソーが、人類に不幸をもたらしているのではないだろうか、とふと思った。

 

最後に、以前海洋法関連で偶然見つけ読んだペーパーに横田喜三郎の事が書いてあった事を思い出した。特に記憶に残っていた箇所を引用しておく。

高橋力也、戦間期日本の国際法実務と立作太郎 ―1930 年ハーグ国際法典編纂会議における領海幅員問題を事例として―『アジア太平洋討究』No. 28 (March 2017)

「立は,満州事変以降の日本の大陸政策の合法性を積極的に肯定した国際法学者として知られ,当時軍部の 行動に対して批判的な論陣を張った弟子の横田喜三郎とは対照的な存在として語られることが多い 。」

「終戦直後,焼け出された外務省の仮庁舎を訪れた小田滋に対して条約局幹部らは,「キミは横田さ んのようになるなよ」と言ったという。小田の師である横田喜三郎の「純粋法学」のような抽象論を やるのではなく,実践的な国際法を研究せよという意味だった。この横田に対する評価の当否は別 にしても,当時外務省がどのような専門家を必要としていたかをこの言葉から看取できよう。換言す れば,「キミは立先生のようになれよ」ということだったのかもしれない。」