やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

第4章 戦争の意味変化 ー 『大地のノモス』より

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japan-forward.com

「先生、国際法知りませんよね。」

 京大の新進気鋭の年下の教授に向かって喉まで出てきて引っ込めた言葉。ベルサイユ条約と戦争犯罪を議論していたのはカール・シュミットの『大地のノモス』だったような。思い出せなかった。思い出せても引用して説明、議論できるほど理解をしていない事は確実だった。

 「第4部 大地の新しいノモスの問題」にある1、2、3章は以前読んでこのブログにメモまで書いていたのだが、すぐに思い出せなかったし、4章はほとんど読んでいない。

 先月、ベルサイユ条約が470条のあることを知ったばかりであったが、そこにヴィルヘルム2世を訴追する第227条と戦争責任条項231条があることを知ったのは吉野作造の生誕地、古川だった。ヴィルヘルム2世は逃避先のベルギー政府から引き渡しを拒まれこの条項は実行さてなかった。だからと言って国際法になっていない、とは言い切れなのである。これで国際法における戦争の捉え方が変化した徴候と看做さなければならない、とシュミットは書く。(これを私は言いたかったんよ。先生国際法わかってないでしょ?と。)

 4章はベルサイユ条約と、米国の公論と世論と、英仏の思惑と、非常に複雑な動きが詳細に書かれている。誤解を恐れずに書くと「戦争犯罪」を国際法に押したのは「米国の世論」であったのだ。なんとなく背後にウォルター・リップマンがいそうな気がする。し・か・も、米国はわざわざ世論形成のためにThe Literary Digestという雑誌が主催して裁判官へのアンケート調査を行なっている。ウィルヘルム二世に対する刑事訴訟手続きに関してだ。

 328の回答中、106が死刑、137が流刑、58が自由刑、27が無罪。

 アメリカの異常性がここからわかる。というか第二次世界大戦の戦争犯罪は米国の「世論」が形成してきたのだ。当時アメリカ代表ダレスは戦争は非合法ではないと強調しているのに、わざわざ世論を形成したのだ!

 戦争犯罪の件、SNSを賑やかしている英国軍ラグビーチーム靖国参拝問題もあり日本人にとって重要な話である。大衆の皆さんが一人でも京大の新進気鋭の教授に教えあげられるようになって欲しい。『大地のノモス』は大作だが、私が読んだ箇所は30ページ程度だ。私も後2−30回読めばなんとなくわかって人に説明できるようになるかもしれない。