やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

チャゴス判決(6)西元、小寺論文「現代型訴訟」

 昨日、チャゴス判決に関するアレン博士の論考のフィリピンとの関係を読んでいて思い出したのが西元宏治論文にあった「現代型訴訟」の件で、小寺彰「国際社会の裁判化」『国際問題』No.597 (2010 年12月) 3 頁から引用されている。

 

 西元論文は2019年の判決の前の論文だが近々メモだけしておきたい。忘れそうなので小寺論文を先に読んだ。

 それほど長くないのでその箇所を引用する。下線は私が引きました。

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現代型訴訟

国内裁判について、最近では紛争処理以外の役割に注意が払われている。国内裁 判を観察すると、強制執行を含めた裁判制度による権利実現のためだけに使われて いるのでないことがわかる。小泉純一郎首相(当時)がたびたび靖国神社を参拝し 韓国や中国の反発を招いたが、同時にこれは信教の自由をめぐる憲法問題にもかか わることから却下覚悟で訴訟が提起された。これは裁判の場、さらには判決で何ら かの言質を得ることを目的としたもので(実際傍論で参拝が憲法違反と断じた判決もあ った)、裁判を通じて世論に訴え政策実現を図ることに提訴の真の目的がある(現代 型訴訟)

国際社会でもこの種の訴訟利用は最近増えている。古くはニカラグア事件であり、 最近ではユーゴ空爆についてユーゴスラビアが北大西洋条約機構(NA TO)諸国を訴 えた「武力行使適法性事件」(1999 年提訴)やロシアのグルジア侵攻後にグルジアが ロシアを訴えた「人種差別撤廃条約の適用事件」(2008 年提訴)は同種のものだ。」

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 南シナ海の問題は追っていないが、ICJ 判決なんで紙くず同然と言っていた中国はその言葉の通り、軍事開発を着々と進めている。どう考えても中国が判決を受けて反省することは想像できない。であれば先進国は自由の航行の確保と、訴えたフィリピンは譲歩と支援の交渉になるのが当然、か?

 チャゴス判決が「現代型訴訟」であるという論考はまだ目にしたことがないのだがその可能性は、高い。だってモーリシャス政府は米軍に出て行ってもらうつもりはない、と言っているのだから。

 

西元論文のリンク

チャゴス諸島海洋保護区に関する国連海洋法条約付属書VII に基づく仲裁判断(モーリシャスvs.イギリス、2015 年3 月15日)インド太平洋における法の支配の課題と海洋安全保障『カントリー・プロファイル』研究報告」

http://www2.jiia.or.jp/pdf/research/H28_International_Law/09_nishimoto.pdf

小寺彰「国際社会の裁判化」『国際問題』No.597 (2010 年12月)

http://www2.jiia.or.jp/kokusaimondai_archive/2010/2010-12_001.pdf?noprint