やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

心の四季

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心の四季

 髙田三郎作曲、吉野弘作詩1967年の作品。

 作曲家、髙田三郎の「西洋および日本の音楽の伝統を尊重しつつも、安易に輸出用音楽や虚偽の民族性によりかからない」音楽は多くの日本人の心を捉えてきました。日本語の美しさを生かす高田の作品をお楽しみください。

 作詞家、吉野弘は1926年山形生まれ。商業学校卒業後帝国石油に就職。入隊を前に終戦を迎え、戦後は労働組合運動をするも肺結核のため3年間療養。療養中に詩作に目覚めます。戦争、労働運動そして療養生活を過ごした吉野が生と死の間に向かい合い、命の儚さと逞しさに特殊な感覚を得た作詞家であることが想像できます。

 当初、髙田は吉野の代表作「I was born」に曲をつけようとしますが吉野がこれは音楽に向かないと新たな詩を作り高田に提供しました。これが「心の四季」です。

 2曲目「みずすまし」には「I was born」に出てくる「カゲロウ」と共通する命の儚さと逞しさが描かれています。みずすましの命を育みそしてその死を抱擁する水。口も胃もないカゲロウが卵をたくさん抱え数日の命と引き換えに次の命を残す。そこに吉野は自分の命を重ね合わせて描きます。志賀直哉の「城の崎にて」、カフカの「変身」、荘子の「胡蝶の夢」にある自身の存在からの乖離、そして自然との融合がそこにあります。

 6曲目「雪の日に」は他の作品に比べ妙にリアルです。雪国山形で育った吉野ならではの作品。雪はそこに住む人々にとって天災であり過酷なもの。

「どこ純白な心などあろう、どこに汚れぬ雪などあろう」

 雪をこのように描写した作品は他にないでしょう。雪の「白さ」と「汚れ」は人間の「善悪」を表し、犯してしまった自分の罪の重さは降り続く雪の重さと白さに埋もれながらも深く心に刻まれていきます。

 

 1曲目「風が」は四季を「風が… 光が… 雨が… 雪が…」で始め、続く6曲を導いています。

 3曲目「流れ」は12拍子の軽快なリズムが急流を表し、早い川の流れと魚の逞しさを。

 4曲目「山が」は前曲Allegro moderateの12拍子からAdagietto(やや遅い速度)の2拍子へとゆったりとしたテンポで雄大な山に引き込んで行きます。

 5曲目「愛そして風」は7曲目と同様季節感がない曲ですが「過ぎた昔の愛」を風に例え微妙な心の動きを表しています。

 最後の7曲目「真昼の星」も季節感はありませんが、昼間の空の見えない星を表舞台には出てこないけれど大切な輝きのある人生として讃えています。