やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

内藤陽介著『アウシュヴィッツの手紙』読書メモ

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 ロックダウンのニュージーランドに入国して2週間、もしくは4週間の隔離生活を目の前に選んだ本は内藤陽介著『アウシュビッツの手紙』

 「はじめに」にある郵便学とは何かを読んだだけでも多くを学んだ。郵便学は立派な学問、学術研究である。そのメソドロジーが確立している。学問、学術研究とはある意味でメソドロジーである。これがないと学問にならない。私は書名に「手紙」とあったので手紙の内容が紹介、分析されているのかと勝手に思っていたがそうではないのだ。切手、消印、郵便制度が分析対象となる。

 ところで、私が内藤先生に最初の興味持ったのはユダヤに関するチャンネルクララでの連続講義だった。全部拝見。ユダヤ陰謀論とかナチス絶対悪では見過ごしてしまう史実があるのでは?となんとなく感じていた。私にとって「霧の中」のユダヤ問題を詳細に解説している。再度拝見したい。隔離生活にはぴったりだ。

 

 隔離生活2日目に<I章アウシュヴィッツ以前>、<II章強制収容所>を拝読。知らない分野でもあり読み進むのが遅い。

 最初に「あとがき」を読めばよかったと思った。内藤先生は「ヒロシマ」とカタカナ書きされる広島に対する同じ疑問をアウシュビッツに抱いてこの本を書かれたのだ。ナチスによるユダヤのホロコースト以外の歴史を持つアウシュビッツ。この視点は戦後の歴史を知るためにも重要。私の勘は当たっていた!

 <Iアウシュヴィッツ以前> はまさに、ユダヤのホロコースト以前の話である。同地域が交通の要になっていく様子がわかる。特に鉄道敷設をあのロスチャイルドが提案したと言うのが興味深い。

 <IIの強制収容所> になると現在自分が置かれている隔離生活と重なって(全く環境は違うが)やはり読むのが辛い。興味を持ったのが強制収容所のルーツだ。まずはボーア戦争中英国が南アフリカに設置。それからボルシェビキ政権のラーゲリでロシア人口の一割が送り込まれた。そしてナチスである。さらに米国での日系人強制収容の話も出てくる。この収容所と言うのが国によって、また社会的政治的背景によって条件がどんどん変わってくる事だ。ナチの初期の収容所は再教育をして社会復帰させることが目的だったのだ。

 

 隔離生活3日目はこの本のメインであろうIII章を読んだ。100ページ弱の量だ。

 欧州の地理歴史に疎い当方は地名歴史が山ほど出てきて訳がわからなく半分も理解できていない。実は、私はアウシュヴィッツがドイツにあるとずっと思っていて、ポーランドにあることを知ったのは40代になってから。お恥ずかしい限り。が、この本を読むとポーランド自身がアウシュヴィツへの加担を否定しようとしてきた事実もあるそうで、そんな背景も私の無知の弁解に、ならないか。

 現在ロックダウンのニュージーランドで隔離生活を送る中、アウシュヴィッツの件は精神的に参るかも、と恐る恐る読んだが、やはり堪えた。環境は全く違うとはいえ、収容所にも日常があったのだ。郵便事情がそこら辺の詳細を教えてくれる。そして政情の変化が恐ろしい虐殺の歴史を作っていく。私はこのまま無事に帰れるだろうか、、と不安に。

 特に収容所でのユダヤ人女性の扱いの箇所が妙に詳細で「内藤先生、裏は取ってますか!」と聞きたくなる。実は「ガス室が存在した証拠は曖昧である」程度の事が書かれていることを「期待」していた。そんなことはなかった、と思いたい自分がいる。しかし自分が日々接しているパラオに関連するのだが、豊田商事事件であれだけ人を騙して殺す人たちが日本人にもいる。あり得るだろうなと思いつつも人間はそこまでするのか、と今自分が置かれている隔離生活がさらに不安に。

 アウシュビッツはナチスによるユダヤのホロコーストで終わっていない。共産主義のロシアがプロパガンダとして利用した件、戦後もポグロム(ユダヤ人というだけで虐殺)がポーランドで続いた件はこの本で初めて知った。
 そこまでユダヤを憎む、恨む背景はなんなのか?確かロックフェラーもチャーチルもユダヤを嫌っていた。音楽高校、大学に通った私にとってユダヤとは西洋音楽に重なっている。