やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

実効支配を勘違いしたメディアが竹島を韓国に差し出す

「竹島はねえ、韓国に実効支配されているから難しいのよ。」

著名なジャーナリストから聞かされた時、そうなのかと思うと同時に、違法に獲得した島を実効支配すればその国の領土になるとしたら、ほとんど管理も開発もされていない、太平洋島嶼国の島々は中国やロシアなどにいくらでも実行支配されて領土及びその海域を奪われるだろう。「実効支配」の国際法の概念、歴史的発展と成立を書いた論文がどこかにあるはずだと気になっていた。横田喜三郎博士が書いていてコピーした書類が偶然旅支度の際に出てきた。

 

先に内閣官房ウェブにある三好 正弘 愛知大学名誉教授の論考を紹介しよう。

「実効支配」という表現について | 総合的論点 | 竹島に関する研究・解説サイト

三好教授は、メディアが「実効支配」を間違って使用しているのに国際法学者が無言である責任を指摘。

事態を正確に表現するには、「実効支配」といわず、「事実上の支配を狙う行為」とでもいうべきではないか。このことに国際法専門家は何故か発言を控えてきたようである。

紹介しようと言いながら、これから客人が来るので、三好教授の丁寧で緻密な事例の紹介と分析を飛ばして結論だけ引用します。

 

まず竹島について。

竹島紛争のクリティカル・デートはいわゆる「李承晩ライン」宣言の1952年とするのが妥当というべきで、そうであるとすると、その後に韓国がとってきた一連の「実効支配」と申し立てる行為は、国際法的に正しい「実効的支配」になっていないということである。したがって、上記のような韓国の一連の行為をメディアなどが鵜吞みにして「実効支配」の行為と表現するのは正しくない。

次に尖閣について。

中国は尖閣諸島に「実効支配」を及ぼそうとしているのではないか、とメディアが報道しコメンテーターなどが発言することがあるが、それは言葉の誤用も甚だしいものであって、看過するわけにはいかない。

まさに、国際法を理解しない、実効支配を勘違いしたメディアが竹島を韓国に差し出しているのである。

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このブログを書く前に、横田喜三郎著「国際法」(『国際法Ⅱ』(有斐閣『法律学全集』56巻,1958年,新版1972年))第1章国家領域、第4節領域の変更 第三先占 に実効支配が国際法として形成された詳細が書かれているのを読んだ。コピーを紛失し、旅支度の最中に出てきた。

やはり19世紀の「帝国主義」すなわち西洋諸国による領土獲得合戦の結果なのである。特にアフリカ大陸において「先にとったもの勝ち」だった植民地拡大の動きの中で、名目だけで放っておかれる土地があり問題となったのだ。1884年のベルリン会議で取り上げられ、1888年の国際法学会で

「領土の先占は、秩序を維持し、権力の規則的な行使を確保するに必要な手段を持つところの、責任のある地方政権を設立することが必要である」と決議された。

この議論はスペインが1494年のトルデシリャス条約を盾に、ミクロネシア諸島の領有権を主張した際、ドイツのビスマルクが実効支配を何百年もしていなかったことを理由に法皇の裁定に持ち込んだ話とも関連する。トルデシリャス条約の正当性は法皇認可の根拠である「聖ペテロの鍵」にあるのだ。その鍵の正当性を近代国際法が否定した、ということではないだろうか?

要は、実効支配の国際法の成立の背景からしても、竹島、尖閣で韓国、中国がとっている行動は断じて実効支配ではないのだ。日本メディアは自らの不勉強で大衆を扇動し領土を他国に譲っているに等しい。