やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

「虹の戦士号」と太平洋の中のフランス

「虹の戦士号」と太平洋の中のフランス

2009年7月31日、第3回フランスーオセアニア・サミットが開催された。

2003年から開催された同サミットの背景を整理したい。*

1.太平洋の中のフランス

 太平洋には広大な海域を有する仏領が存在する。

 仏領ポリネシア(EEZ: 475万㎢)、ニューカレドニア(EEZ: 174万㎢)、ワリス・フツナ(EEZ: 26万㎢)の排他的経済水域は合計で675万㎢に及ぶ。

 戦後、太平洋のフランス語圏(フランコフォン)と英語圏アングロフォン)を隔てたのが、1966年から1996年まで約200回実施されたフランスの核実験と仏領の独立問題である。太平洋諸島フォーラム(旧南太平洋フォーラム)の隠された設立背景には、この2つの課題があった。

 同フォーラムは1985年に南太平洋非核地帯条約(通称ラロトンガ条約)を採択、署名。(米国と自由連合協定を結ぶミクロネシア3国は、同協定が域内での米国の軍事活動を容認する内容なので調印できない。)

2.国家テロ行為 ― 「虹の戦士号」爆破事件

 ラロトンガ条約が署名された1985年8月6日の約1ヶ月前、7月10日にニュージーランドオークランドに停泊していたグリーンピースが所有する「虹の戦士号」が何者かによって爆破。逃げ遅れたグリーンピースのカメラマンが死亡した。「虹の戦士号」は核実験抗議活動の拠点であった。

 当初、国家の関与を否定していたフランス政府も、後に対外治安総局(Direction Générale de la Sécurité Extérieure:DGSE)に指示していたことを認める。国家テロ行為として、フランスと太平洋、特にアングロフォンとの関係をさらに悪化させた。

 「虹の戦士号」爆破事件によって、太平洋、特にニュージーランドではグリーンピースが太平洋を守る象徴、英雄的な存在になった。

3.2005年「虹の戦士号」20周年と9.11

 2005年7月、「虹の戦士号」爆破事件20周年記念行事がニュージーランドで大々的に開催された。これを一つのきっかけに、太平洋のフランコフォンとアングロフォンの壁が崩れていく。9.11以降、太平洋地域の安全保障強化のため、豪、NZ、仏の軍事協力を進める必要性もあった。フランス主催のサミットはこのような背景の中で開始された。

 豪、NZ、仏は1992年、主に自然災害援助活動の協力枠組みを目的にFRANZ同盟を締結していたが、「核」の問題が、その活動を鈍らせていた。しかし、ここ数年FRANZ同盟による太平洋地域でのオペレーション、島嶼国への人道支援活動も活発になってきている。

 具体的な成果として、2010年にはハワイータヒチーワリス・フツナーニューカレドニアシドニーが通信海底ケーブルで結ばれる予定だ。フランスはニューカレドニア仏領ポリネシアに千人規模の海兵歩兵連隊を配置している。両連隊の活動効率を上げるため、通信海底ケーブルの計画があったが、ペイしない。しかし、シドニーまで施設されることで経済的に可能となった。クワジェリンーグアムを結ぶ海底ケーブル同様「軍民両用」だ。安全保障+経済・学術等他の分野での交流も期待されている。

4.太平洋の中のフランス、太平洋の中のEU

 フランス政府は2009年、仏領ポリネシアの核実験被害者補償を始めた。太平洋の3つのフランス領 ― ニューカレドニア、ワリス・フツナ、仏領ポリネシア太平洋諸島フォーラムのアソシエートメンバーに推薦した。これら3つのフランス領はフランスの市民権を有することから欧州連合の市民として欧州議会に対する選挙権を持ち、最低限のEU法の規定が適用される。

 フランスは太平洋の友好国としてそのイメージを変えつつある。

 太平洋は域内にEU(正確にはEU特別領域)を抱え込む形になる。

 既述のハワイー仏領太平洋諸島―シドニーを結ぶ海底ケーブルは、欧州開発基金が資金援助をし、バヌアツにも分岐される。フランス政府とEUの連係プレイだ。

 2010年、EUの支援によりミクロネシア連邦の「全て」の有人離島通信衛星で結ばれる、とのニュースもある。

 EUのACP(Africa, Caribbean, and Pacific)最新動向やフランス政府の対外政策は、さらに勉強を続けさせていただきます。

(文責 早川理恵子 2009.8.5)

*前回の「第3回フランスーオセアニア・サミットの報告」で第1回は2000、第2回は2003年と書きましたが、2003年と2006年の間違いです。訂正してお詫びします。