やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

アンフェアトレード

アンフェアトレード

 今月、マーシャル諸島と日本の漁業交渉が決裂し、ニュースになった。

 マーシャル諸島EEZで捕獲できるマグロの末端価格は年間約100億円。マーシャル諸島政府に入る漁業権は2億円。

 額が大きいと実感が湧かない。桁を落とそう。2円で売った自分たちの資源マグロ。回転寿しで100円で売られている、ということだ。これをどう思うか?

 石油や鉱物等の原産国が取得する利益は30-50%。マグロ市場は正常なのか?

フェアトレード

 一時期、「フェアトレード」がはやった。中間搾取をなるべくなくして、途上国等原産国の生産者に「フェア」な値段で収入が得られる様にする仕組みである。

 これが市場経済に反するか。少なくとも道徳学者であったアダム・スミスが聞けば評価するであろう。見えざる手のジュピターも微笑むであろう。

 マグロ市場は「アンフェアトレード」と言わざるを得ない。

<なぜ2%で手を打つのか>

 それではなぜ今までマーシャル諸島政府は2%で手を打ったのか?

 島嶼国の行政スタッフは数が少ない。大臣と事務次官だけという状況だ。彼らが日本に呼ばれ、銀座で接待漬けになる。袖の下を貰うこともある。(官房機密費か?)さらに病院建設等の大きな援助案件をちらつかせる。マーシャル諸島国内でこれがアンフェアである、という世論はほとんどない。担当者は2%で手を打つ。

 以上、島嶼国の漁業専門家から聞いた話である。

<タックスペイヤーがマグロを食べる>

 海洋政策財団が開催したセミナー水産庁の宮原氏が指摘していたことが忘れられない。

「マグロの値段を押さえようとする背後には一皿100円の安いマグロを買い求める消費者がいるのです。」

 必用な量だけ穫って適正価格で消費しよう、という消費者のフェアトレード意識が重要だ。

 また自分たちの税金でマーシャル諸島に病院が建設されて、感謝されているだろう、と単純に考えてはいけない。それはあなた(私も)が100円でマグロ一貫を食べる事への見返りである。

 そしてこのことは負の連鎖、即ち、援助による信頼も構築されず、漁業資源の枯渇を導き、さらにマーシャル諸島の人々のGDPも一向に増えない、という話なのだ。

(文責:早川理恵子)

参考

JAPAN REJECTS MARSHALLS BID FOR FISHERIES REVENUES

Negotiations for new agreement break down

By Giff Johnson

MAJURO, Marshall Islands (Marianas Variety, Sept. 6, 2010) - Negotiations between Japan and the Marshall Islands for a new fisheries access agreement have broken down and are not expected to resume until after the New Year.