やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

シャングリラ・ダイアローグ安倍総理の基調講演と日本財団の業績

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当方がビリオネラーや豪州海軍に繰り返し説明している事。

日本財団の過去50年の海洋分野に対する支援である。

実はこの事が昨晩のシャングリラ・ダイアローグでの安倍総理基調講演に盛り込まれていたので下記に引用しておきたい。

基調講演全文はこちらにあります。http://www.mofa.go.jp/mofaj/fp/nsp/page4_000496.html

日本財団の姉妹組織、笹川平和財団は創立以来海洋問題を扱って来なかった。

始めての海洋事業は2008年に開始した「ミクロネシア海上保安事業」である。よって同事業は当初から日本財団海上保安庁と連携しながら進めて来た経緯がある。

当方も、この事業で始めて海洋問題を扱う事となった。よって、日本財団の業績等は笹川会長や海野常務、海洋政策財団の寺島常務、そして羽生会長から直接伺いながら、その姿が見えてきた、というのが本当のところである。だからまだ正確に把握していないかもしれないが、こうやって書く事で、学べるのあるから敢えて書いておこうと思う。

安倍総理基調講演の「ASEANへの支援」の部分はアジア諸国への沿岸警備への支援が述べられている。過去50年、日本政府に代わって日本財団が支援してきた、また現在も支援している内容と重なっており、最近になって日本政府がODA等で支援を始めた、と理解している。

沿岸警備とは法執行分野なのである。これが、海軍しかない豪州や英国にはわからない。ASEAN諸国に続々と誕生した沿岸警備組織は日本財団の支援が背景にある、(と理解している)。

海洋安全保障、一義的には法執行、そして軍事力の存在を否定するものではないが、緊張が高まる海域で「なんとかデストロイヤー」のような軍艦が出て来る事は、好ましくないメッセージを相手に与えてしまう事になる。

安倍総理の基調講演の下記の部分には「日本財団」という表現は出て来ないが、日本財団が支援してきた事は自明の事実であろう。

以下引用

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ASEANへの支援

 ASEAN各国の,海や,空の安全を保ち,航行の自由,飛行の自由をよく保全しようとする努力に対し,日本は支援を惜しみません。では日本は何を,どう支援するのか。それが,次にお話すべきことです。

 フィリピン沿岸警備隊に,新しい巡視艇を10隻提供することに致しました。インドネシアには,既に3隻,真新しい巡視艇を無償供与しました。ベトナムにも供与できるよう,必要な調査を進めています。

 日本が実施する援助全般について言えることですが,ハード・アセットが日本から出て行くと,技能の伝授に,専門家がついていきます。そこで必ず,人と,人のつながりが強くなります。職務を遂行すること,それ自体への,誇りの意識が伝わります。

 高い士気と,練度が育ち,厳しい訓練をともにすることで,永続的な友情が芽吹きます。

 フィリピン,インドネシア,マレーシア3国だけで,沿岸警備のあり方について日本から学んだ経験のある人は,250人をゆうに上回っています。

 2012年,ASEAN主要5カ国から海上法執行機関の幹部を日本へ招いたときは,1カ月の研修期間中,1人につき日本の海上保安官が3人つき,寝食をすべて共にしました。

 「日本の場合,技術はもちろん,1人1人,士気の高さがすばらしい。持って帰りたいのは,この気風だ」と,マレーシアからの参加者は言ったそうです。私たちが本当に伝えたいことを,よくわかってくれたと思います。

 ここシンガポールでも,8年前にできた地域協力協定(ReCAAP)に基づいて,各国のスタッフが,海賊許すまじと,日夜目を光らせています。事務局長はいま,日本人が務めています。

 日本はこのほど,防衛装備について,どういう場合に他国へ移転できるか,新たな原則をつくりました。厳格な審査のもと,適正な管理が確保される場合,救難,輸送,警戒,監視,掃海など目的に応じ,日本の優れた防衛装備を,出していけることになりました。

 国同士で,まずは約束を結んでからになります。ひとつひとつ厳格に審査し,管理に適正を図ることを心がけつつ進めていきます。

 ODA自衛隊による能力構築,防衛装備協力など,日本がもついろいろな支援メニューを組み合わせ,ASEAN諸国が海を守る能力を,シームレスに支援してまいります。

 以上,お約束として,申し上げました。

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なお、櫻田淳氏が同基調講演に対し、下記のコメントを出ししているのでこれも引用しておく。

- - - - 桜田氏のコメント - - - -

一読、「大人(たいじん)の演説」と評すべきであろう。

日本国内メディアの中には、「対中包囲網」の形成という文脈で解する向きがあるけれども、この演説で説かれているのは、「常識に還れ」というほどのものでしかない。演説中にある「国際法に照らして正しい主張をし,力や威圧に頼らず,紛争は,すべからく平和的解決を図れ」という「常識」である。

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参考

アジアの沿岸警備の能力向上目指して 2期生の研修が海保大でスタート

http://blog.canpan.info/koho/archive/1748

マラッカ・シンガポール海峡の安全航行支援

http://www.nippon-foundation.or.jp/what/projects/safe_passage/