やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

Et tu, DeCaprio? デカプリオ、お前もか?

先週米国国務省主催で開催された"Our Ocean 2014" 。メディアの脚光を浴びたのはハリウッド俳優レオ•デカプリオのスピーチと新たな7億円ばかりの彼の財団からの拠出金である。

Et tu, DeCaprio? (デカプリオ、お前もか?)

と心の中でつぶやいてしまった。

この海洋保護活動、最近はビリオネラーや軍事産業の餌食、そして環境原理主義者(当方の造語)の、要は白人による新植民地支配に見えてきていたので、ガッカリした。

レオ•デカプリオ、『ブラッド・ダイヤモンド』や『J・エドガー』などの社会問題や『シャッター アイランド』『インセプション』(老荘思想胡蝶の夢)も扱っていてファン、なのである。

娘には「デカプリオから結婚を申し込まれたらお父さんの別れるから。」と常々言い聞かせてある。

お願いだから、まともな事を言っていて欲しいと一縷の望みを持ってYouTubeを見たが。。 かわいそうなサメやイルカだとー!

<唯一光っていたレメンゲサウ大統領>

我らがパラオ共和国のレメンゲザウ大統領も当然の事ながらスピーカーで招かれている。

メディアが、米国、キリバスが海洋保護区と商業漁業禁止を宣言する中で、下記のように述べている。

「誤解しないで欲しいのです。私はアンチフィッシングではありません。持続可能なフィッシングを支持する立場です。私自身もフィッシャーマンです。パラオではフィッシングが上手な独身男性が一番モテます。家族を食わせる事ができるからです。」(下記YouTube14分頃から)

世界中が、デカプリオまでが環境原理主義の罠にはまっている状況の中、このレメンゲザウ大統領のコメントは強調しすぎる事がないほど重要だが、メディアはどこも取り上げていない。

大統領制と議院内閣制>

2009年にブッシュ大統領が退任直前に駆け込みで発表した海洋保護区。 今回の会議を機会にオバマ大統領がこの保護区を50海里から200海里に拡大すると発表。日本のメディアや環境原理主義者は「さすがアメリカ!」みたいな反応だった。この日本の単眼的米国崇拝。

大統領制の米国には大統領のexecutive powerなるものが存在する。議院内閣制の日本ではできない。

今回のexecutive powerの行使、早速米国内では懸念するコメントが至る所に出ている。米国がまともな証拠である。

しかもキリバスの近くに、米国がこんな小さな島々を領有している事も、領有した背景(鳥のウンチ法で)もほとんどの米国人は知らない事実であろう。その意味ではオバマ大統領の発表は米国人に太平洋のど真ん中にある米国の領土、領海を知らしめる機会になったのではないだろうか?

例えばFox News

"President Obama on Tuesday announced plans to create what could be the largest marine preserve in the world, an initiative that aims to protect "pristine" Pacific Ocean environments but could run into opposition from the fishing industry and lawmakers worried about the president's use of executive power. "

Obama aims to create world's largest ocean preserve

Published June 17, 2014

http://www.foxnews.com/politics/2014/06/17/obama-will-reportedly-expand-protected-areas-pacific-ocean/

今回の提案は環境原理主義者の支持を得ながら(デカプリまで利用して)太平洋でのPACOMの活動強化を狙っているのでは、と穿った見方もしてしまう。保護区を指定したらサーベイランスが必須なのだ。環境原理主義者はパラオ国民に約束した支援金を払わなくても、”かわいそうな”サメやイルカを守るために税金を使う事には反対しないであろう。

<海洋保護地区(Marine Protected Area)の誤解>

それから海洋保護地区が禁漁区だとの誤解、曲解も蔓延っている。

海洋保護区イコール漁業を含む人間の活動一切禁止、と信じている人が多いし、環境原理主義者はそのように主張しているようである。

第 27 回海洋フォーラム講演「知床の海域管理:世界遺産への新たな課題」(横浜国立大学環境情報研究院 教授 松田 裕之)

にその誤解が説明されているので長くなりますが下記に引用させていただきます。なお、米国NOAAも同様な事を言っています。http://oceanservice.noaa.gov/facts/mpa.html

(引用開始)

海洋保護区について

IUCN から再三指摘されたにも拘わらず、政府は一貫して海洋保護区という言葉を用いなかった。その背景には、我が国では海洋保護区が禁漁区(No-take zone)と混同されており、もし 海洋保護区を設定すると言えば漁業者から強い反発を食らう可能性が高いことにも原因があ るだろう。しかしながら、既に日本にも海洋保護区と言える実行がいくらか存在する。たとえば、 京都府沖合海域におけるズワイガニ資源の管理は、漁業者が中心となって禁漁区を含む海 域管理が行われており、実質的な海洋保護区が運営されている。これは順応的管理(adaptive management)のモデルケースとしても興味深いものがある。国内の実行を如何に海外に伝える かという点にもう少し注意が向けられて良い。日本の沿岸漁業制度において特徴的な漁協に よる自主規制も、voluntary regulation などと説明すれば、海外では理解されにくく、「資源利用 者による資源の保護・培養」を理念とした Community-based Management と説明すれば実態に も即し、またより良い理解を引き出しうる。(引用終了)

里山、里海という日本の伝統的環境保護、デカプリオに今度会ったら教えてあげなくちゃ。