やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

『昭和史講義 ー 最新研究で見る戦争への道』筒井清忠編(ちくま新書2015年)

ネットや本に溢れる、近現代史の研究。

その様子を明確に指摘されたのが筒井清忠氏ではないか、と思う。

当方は民主党の近現代史研究会で筒井清忠氏の講演を聞く機会が一昨年あったが、同氏が編集し昨年出版された『昭和史講義 ー 最新研究で見る戦争への道』を手に取った。

ここにも繰り返されている。

 

「すなわち、2000年に入る前後から歴史認識をめぐる問題がかまびすしくなり、昭和史に対する関心が非常に高まるのに相前後して不正確な一般向けの昭和史本が横行し始めたのである。

 それらでは新しい研究の成果など全く追っていないので、過去の間違いがそのまま踏襲されていたり、俗説や伝承の類いがチェックもなく横行していたりしている。自分らに都合のいい心地よい昭和史を実証的根拠もなくそれらはもっともらしく語っているのである。それは専門の研究者から見ると民俗学の対象のように見える世界である。」(同書 8−9頁)

 

たしかにネットに溢れる近現代史の言説は、語り手の立ち場が見えて来る。即ち「自分らに都合のいい心地よい」言説だ。語り手のバックグラウンドを調べる事は重要なのである。また語り手が自分のバックグラウンドを語る事も重要なのである。即ち、どのようなバイアスがかかっているか、自己評価と外部評価が必要だ。

 

歴史の客観性と主観性について、カーの歴史理論を引いて来て語る能力は当方にないが、認識論を多少学べば、イヤ日本人であれば学ばなくても、老荘思想や、芥川龍之介の『藪の中』に触れていれば「認識」するとは何か、ある程度わかっているハズだと思う。

ちなみに以前も書いたが世界に評価された映画『羅生門』のストーリーは『藪の中』が中心で、亡くなったスティーブ•ジョブスも引用していた「羅生門効果」とはこの『藪の中』のストーリーを参考に理論化されている。

これについては別項で書きたい。自分の博論でも方法論で議論したので材料は揃っている。

 

ところで、『昭和史講義 ー 最新研究で見る戦争への道』は15名の博士号を持つ研究者が執筆している。実証的研究に基づいているのだろうが、各執筆者の立ち場がわからない。当方は歴史研究者ではないのでその内容を鵜呑みにするしかない。

筒井先生が指摘する「不正確な一般向けの昭和史本」と内容は違っていても、15名の博士の論説も、一つの「認識」でしかない、というのが当方の「認識」である。

 

認識論について以前チラッと書きました。

yashinominews.hatenablog.com