やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

『母なる天皇-女性的君主制の過去・現在・未来』明治以降

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 『母なる天皇-女性的君主制の過去・現在・未来』の英文原著2006年発行

 ベン=アミー シロニー著『母なる天皇-女性的君主制の過去・現在・未来』の後半半分は明治以降から現在までの皇室について書かれている。

 前半は私が皇室の歴史を知らない事が理由かも知れないが、非常の面白かった。 しかしこの後半部分は、著者の資料研究の範囲、限界が気になって、どうもしっくり来なかった。

 それに明治天皇以降和歌を詠む事と政治を、同著の前半同様、分けて議論しているのも気になった。誰か日本人がきちんと教えてあげなかったのであろうか? 参考文献には共産党の宗教学者村上重良も、『国家神道とは何だったのか』の葦津珍彦も取り上げられているが、この二人がどのような背景を持っているのかまでは書かれていない。ご存知なのだろうか?

 興味深かったのは宮内省侍医だったドイツ人のエルヴィン・フォン・ベルツ博士のコメントが引用されている箇所だ。ベルツは新渡戸の親友で、日本人マレイ説(オーストロネシア語族)も提議している。

 それからヴァイニング夫人のコメントも。皇太子が神武が本当にいたのかどうか、私たちにもわからない、と述べていた、とある。

 この本の原著は英文で"Enigma Of The Emperors: Sacred Subservience In Japanese History"というタイトルだ。2006年に発行されているからそんなに古い本ではない。 「南京虐殺」と2度程、何の検証もなく出て来ているのは抵抗を感じたが、それでも日本人すら知らない、知ろうとしない、複雑な皇室の歴史についてまとめられている事は素直に素晴らしいと思う。

 できれば新渡戸の天皇論も参照されていたら、また別の視点があったかもしれない。しかしこれは日本人の責任だ。誰も新渡戸の天皇論をきちんと読んでいないのだから。

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明治天皇以降は陵は東京の多摩に。京都は道真の飛梅伝説の梅が満開だった。