やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

海洋問題ー太平洋島嶼国のプロパガンダとレトリック

太平洋青年協議会の面々。海底鉱物開発の犯罪をストップさせよう!一体どこからこのような発想を得たのか?

 

およそ太平洋島嶼国の伝統的知識や文化と関係のないEEZとその外の公海の管理に関して、当該地域の政府地域機関の太平洋諸島フォーラム(以下PIF)が政治的レトリック、プロパガンダまがいの情報を発信している。(下記のブログに書いた。)

6月の国連海洋会議へ向けて、また来週のBBNJ第3回準備会議に向けて太平洋島嶼国の動きが急に活発になってきた様子だ。


 

PIFが発信したのは彼らの意見ではなく、プロジェクトシンジケートの記事だ。執筆者はコスタリカ元首相JOSÉ MARÍA FIGUERES、WTO元事務局長Pascal Lamy(仏人)、クリントン政権の大統領首席補佐官だったJOHN D. PODESTAの3名。

 

The fight for ocean health

https://www.project-syndicate.org/commentary/un-sdg-14-ocean-regeneration-by-jose-maria-figueres-et-al-2017-02

 

2030年までに30%を海洋保護区にすること。気候変動と海洋の関係から、気候変動問題の解決。特に資金調達のコミットメント。そして魅力的な数字を上げている。こんな数字を島嶼国のリーダー達が見たらアンフェアに思うだろう。筆者はそれを狙って書いたのではないだろうか?

 

・世界のGDP の 5% に当たる$2.5 trillionが海洋から得られている。このGDPは世界7位の経済に相当する。

・大きな雇用を生み出し30億人の生計を支え、26億人の食糧を提供する。

 

そして、経済以上に重要なのは海が空気を、気象をそして平和と繁栄を生み出している事だ。海は我々の未来である。だから海の為に闘おう!と書いている。何をどう闘うのか?記事には資金調達と30%保護区のことしかない。

 

もし海洋問題を真剣に学ぶ人であれば30%の海洋保護区は何の科学的根拠のないどころか、逆に海洋保護から離れてしまう事は知っているはずだ。PIFは海洋専門家がいないのである。本当は日本が助けてあげなければいけない。

しかも便宜置籍船で違法操業を展開しているのは太平洋島嶼国である。便宜置籍船大国のマーシャル諸島とバヌアツはBBNJ協議に消極的である。

繰り返すが、EEZやABNJの生物多様性資源や海底資源の開発は凡そ太平洋島嶼国の伝統的知識と関係ない。先進国の開発側は大きなリスクや地道な努力の下に行うのである。

太平洋青年協議会は「海底資源開発は犯罪である」と言い出している始末だ。この組織笹川平和財団の助成で設立した。私が担当したので、この状況は嘆かわしい。(上記写真)

しかし、パラオのレメンゲサウ大統領の立場になって考えてみよう。広大なEEZとそこに繋がる公海を持って誕生した太平洋島嶼国はその恩恵を受ける事ができないのだ。EEZ80%を商業漁業禁止にして保護区信託基金設置する。私が大統領であれば同じ事をするだろう。

海洋問題、やはり南北問題、開発の問題であるように思う。

 

次は産経に掲載されていた下記の記事の通り、トランプ政権で化けの皮が剥げた京都議定書とリオ1992の結果として過剰な森林保護の動きを、じっくり調べていないのだが、軽く触れておきたい。

 

「トランプ大統領の一撃で温暖化交渉の理想主義は剥落した 京都議定書は日本外交の稀にみる大失敗であった」 東京大学客員教授・米本昌平

http://www.sankei.com/column/news/170323/clm1703230007-n1.html