やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

国連海洋会議に観る島嶼国の態度

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アコラウ・トランスフォーム博士

 

THE UN OCEANS REGIONAL PREPARATORY CONFERENCE AND ITS IMPLICATIONS FOR THE PACIFIC ISLANDS STATES; SOME OBSERVATIONS

Apr 20, 2017

http://sbmonline.sb/index.php/2017/04/20/un-oceans-regional-preparatory-conference-implications-pacific-islands-states-observations/

 

追記:流石にこの記事のリンクは切れている。同じタイトルでUSPから出ているが、ナウルの大使の生々しい発言の記述はない。

http://bellschool.anu.edu.au/sites/default/files/publications/attachments/2017-06/ib_2017_16_oceans_aqorau_relinked.pdf

 

来る6月、フィジー政府とスウェーデン政府が主催する、国連海洋会議がニューヨークの国連で開催される。この準備会合に参加したアコラウ・トランスフォーム博士の意見が面白い。同博士はナウル協定事務局の初代事務局長で、ソロモン諸島出身である。

 

トランスフォーム博士は外国船の入漁料をつり上げて、一気に島嶼国の収益を増やした超本人である。これは法令を尊守し労働者保護、環境保護を真面目にやっている日本漁業には打撃だし、水資源管理とは無関係な政策である。ここはしっかり、はっきり押さえておきたい。

 

 

さて、この準備会議では太平洋の声として”Call to Action"というタイトルの文章が Oceans Commissioner 事務所(PIF事務局長)とPIDF事務局で作成されたとある。

 

しかし、この準備会合で多くの混乱が観察できた。

例えば太平洋小島嶼開発国(以下PSIDS:Pacific Small Island Developing States )の議長、ナウルのマリエーヌ大使は

「私が興味があるのはお金だけ!現金が地域に行き渡るの見たのよ!」と述べたのだそうだ。

(すごいですね。。本音丸出し。。)

 

"PSIDS Chair, Ambassador Marlene of Nauru said, “I am only interested in the money; I just want to see the cash flow to the region”"

 

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しかもトランスフォーム博士によればPSIDSの文章は事前に作成されおり協議する余地もなかったし、地域政府間組織の関与が全くなかった、という。(いったい誰が作成したのであろう?)

 

地域会合の最終文章策定グループには、オーストラリアが排除され、ブルーエコノミーのチャンピオンPIDFの事務局長も参加できなかったのである。そしてその文章のコピーは市民団体、地域政府組織には一切渡されなかった。。

 

そしてトランスフォーム博士はパラオのレメンゲサウ大統領を批判する。大統領はパラオのEEZを閉鎖した事で海外からお金が来た事を繰り返すが、これは太平洋の若者にとっても志気を失わせる対応だ、と手厳しい。もっと自らお金を稼ぐことを考えるべきだ、と。ちなみにナウル協定事務局はこのパラオの海洋保護区制定は支持していない。

 

太平洋島嶼国は世界でも多額の援助の貰い手となっている。しかし島嶼国の海洋資源は何千億円も稼いでおり、島嶼国のリーダーは自ら稼ぐ事を考えなければならない。援助に頼らず自立する国家を目指すべきだ。

 

そしてトランスフォーム博士持論のself determinationとVessel day scheme 即ち自決権と入漁料つり上げスキームの話が出ている。PNAは入漁料を吊り上げて収益を増やす事で自決権を強化したぞ、と主張する。

 

島嶼国のリーダー達は、自分たちを犠牲者に仕立てて、援助を貰おうとするのではなく、何千億円もの価値のある海洋から利益をえる事を考え、それを国連海洋会議にいれるべきだ、と。

 

 

 

んーー。深い。

最後の「自分たちを犠牲者に仕立てて」は大きく同意する。

ナウル大使の金が見たい!も納得。

パラオ大統領が手つかずの海洋保護区を制定してお金をせびるのもわかる。私が大統領であれば同じ事していただろう。

トランスフォーム博士が入漁料吊り上げで大金を得た経験から、犠牲者になるな、自決権を確保せよ、と主張するのもわかる。

 

この意見の背景に共通しているのは、数千から数万人、多くて80万(フィジー。パプアニューギニアの900万は例外)の人口で、しかも太平洋に隔離された島が、主権国家としてやっていく事の限界ではないだろうか?

自決権を議論している、EHカーやカッセーゼ博士のように、小グループの自決権は否定しないが、限界があることを認めるべきだと当方は考える。小国の運営は自由連合等な大国の支援が、特に経済と安全保障の分野は、必要なのではないか?

 

あらゆる島が同等に広大なEEZを持てる事としたUNCLOSが抱える問題を示しているようだ。1970年代、これを支持したのが、ニュージーランド、フィジー、サモア、トンガなど太平洋島嶼国だったのだ。