やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

「日本は誰と戦ったのか」ー コミンテルンの秘密工作を追及するアメリカ 江崎道朗著(2)

 

 まさか太平洋島嶼国からゾルゲに繋がるとは思わなかった。

正直、ソ連、ロシアの事は関心も知識ない。関心があるのはチャイコフスキーやハチャトリアンの音楽くらい。

 

江崎道朗著「日本は誰と戦ったのか」ー コミンテルンの秘密工作を追及するアメリカ で、一番衝撃的だったのが第1章の「日米を開戦に追い込んだゾルゲ」だった。

南進を、太平洋戦争を仕掛けたのはゾルゲだった。日本に英米を敵に回し、北のソ連から関心を反らせたのはゾルゲだった。

そんな事、みんな知っているのだろうか?

もし知っていたらなぜ今まで誰も私に教えてくれなかったのだろう?

 

江崎氏の本は素人にもわかりやすいように平易に書いてあるのだが、他の章はほとんど頭にインプットされず、この部分だけがこの1週間ほど、頭の中で台風している。

 

なぜか?

インド太平洋構想の起源を探ろうと、ハウスホーファーに突き当たって、10日ほど前に読んだハウスホーファー研究論文に、ハウスホーファーがゾルゲにも会っている事が書かれていたからだ。そこには会った、としか書いていなかった。日本に関する情報をハウスホーファーは多くのドイツ人に伝えたのだが、そん一人がゾルゲだったとい情報だけである。

しかし、ゾルゲが「南進論」を唱えたのであれば、点と点が繋がる。すなわちゾルゲはハウスホーファーから「太平洋地政学」を学んでいるはずなのだ。

 

ウェッブ検索した。日本語でだ。

 

ビンゴ!

 

当たりすぎていて怖いくらいだ。白井久也編著「国際スパイ・ゾルゲの世界戦争と革命」(社会評論社 2003)に「地政学者としてのリヒアルト・ゾルゲ」がモルジャコフ、ワシーリー、エリナルボビチによって書かれている。ゾルゲは優秀な地政学者だったのだ。モルジャコフ、ワシーリー、エリナルボビチ氏は以下の点を指摘している。

 

・ゾルゲが日本訪問した時の推薦人はハウスホーファーであった。

・ゾルゲの地政学の師匠はハウスホーファーで、ハウスホーファーの地政学の雑誌11冊に8本の大きな論文をゾルゲは書いている。ハウスホーファーは地政学者としてのゾルゲを高く評価していた。

・ゾルゲはハウスホーファーのユーラシア主義を進めようとしていた。ユーラシア主義はハウスホーファーが作り、リッペントロップが推進し、ヒトラーが裏切り完全に葬り去られた。

・ゾルゲは日ソ戦と独ソ戦を防ごうとした。

 

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 ゾルゲの南進論の背景にハウスホーファーがいるのであれば、ハウスホーファーの地政学は後藤新平の影響があったようだから、起源は日本にある。しかし、想像するにハウスホーファーが、そしてゾルゲが日本の膨張論を、植民政策をどれだけ理解できていたかは疑わしい。相当曲解されて日本に持ち込まれたのではないだろうか?

後藤ー新渡戸の植民政策の流れを組む矢内原はゾルゲの、もしくはハウスホーファーの南進論に反発し、結果として近衛首相に東大を辞職させられたのではないだろうか?ここら辺は全くの想像だ。矢内原vs蠟山(近衛のブレーン)の論争を再度読んでみたい。

 

 

ちょうどこの本を読む前日、私は同志社大学で行われた佐藤優氏の講演会に参加。テーマは「良心と国際政治」である。

ゾルゲや尾崎秀実のことはほぼ知らないのだが、彼らは彼らの良心に従って日本を戦争に追い混んだのか?

 

「国際スパイ・ゾルゲの世界戦争と革命」は約100ページの日本人の議論と同じく約100ページのロシア人の議論が収められ、さらにゾルゲの手紙や通信が和訳され200ページ近く収められている。パラパラめくった程度だが、ヒトラーが日本がシンガポールを攻略すれば南太平洋は日本に譲る、と言っている箇所などその信憑性も含め、誰かが検証、議論していないだろうか?