やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

『ナショナリズムの発展』E H カー(読書メモ)

海洋法の本を読んでいたらこの本が引用されていた。

国境を引いたことが書かれているという。

ナショナリズムの発展』E H カー 大窪 愿二訳(2006年みすず書房

国家とは何か、色々と読んできたがあまり記憶に残っていない。アンダーソンの想像の共同体くらいしか。。

ルソーを引用した本書。読んでよかった。他順次引用しておく。

p. 12 近代ナショナリズの始祖はルソー。大胆にも「国家」と「人民」を同一視した。これがフランス革命アメリカ革命の基本原則。(なんでみんなルソーに騙されるの?)

p. 13 ナポレオンは近代ナショナリズムの布教師となった。民衆的独裁者。啓蒙期のコスモポリタニズムはロマン主義運動のナショナリズムへ。国際関係は国王の個人的利害から国民の集団的利害へ。

p. 36 1870年には政治的団体は14。1914年には20。1924年には26。50年でヨーロッパの独立国が2倍になり地域秩序は悪化。 民族自決主義は分離への永続的誘惑。

p. 41 ナショナリズム社会主義が露骨な全体主義に。 1914年以降は敵国市民との個人関係も商取引も犯罪となった。

p. 43 17,18世紀の国際法は主権者たちの信義に立っていた。19世紀は財産権の尊重を支えにロンドンの国際金融当局を恐れこく作法と国際協定が守られた。しかしビスマルクが国家を社会化しその法遵守精神は破られた。

p. 47 西ヨーロッパではキリスト教世界、自然法、世俗的個人主義の上にナショナリズムが成長したが、このような習慣がない他の世界にナショナリズムが広がっていった。

p. 53 ヒトラーの成功が近隣諸国のナショナリズムの没落を鋭く判断したこと。

p. 44-45 アジアでのナショナリズムは弱く確信がない。

p. 78 日本の共栄圏を批判。中国は文明としてまとまっている。(本当?カーのアジア理解ってどうなっているのだろう?)インドは英国の一部だって!この本は1945年に書かれた。

p. 59 国民は個人が自然の権利を持つのに対し、それを持っていない。国民は定義できず実態がない。

p. 62-63 19世紀は民族の自由を論理的帰結と認めたが、陳腐な常套句で、民族を崇拝の対象に引き上げるヒトラーの流儀と同じ。 1919年以降、ハプスブルグ帝国から解放された人々が後悔したのは周知の事実。

p. 67-68 カーの国際連盟批判も興味深いが引用は省く。

どこに書いてあったか、当時ヨーロッパに20、他に60あった「国家」がこれ以上増えないであろう、というようなことが書いてあったように思う。カーは1982年まで生きた。その後どんどん誕生する国家を見てきたわけだ。どのように思ったのであろう。

訳者は、この本は『危機の20年』『平和の条件』『講和条約の国際関係』に続く同じジャンルの本であるという。そしてカーが議論してきた「国際社会の政治的経済的単位の規模」すなわち小国の自決権のことがコンパクトにまとめられているのだという。

カーの自決権の議論は、実は博論に引用する予定なので、この本は再度読みたい。しかしこれだけカーが小国の自決権を否定したのに、なぜ小国が次から次に誕生してしまったのか?

答えは。。

民族自決主義は分離への永続的誘惑。」

「民族を崇拝の対象に引き上げるヒトラーの流儀」

目次

1. ナショナリズムの極点

  第一期

  第二期

  第三期

  極点

  第四紀は果たしてありうるか

2. 国際主義の展望

  個人と国民

  国際秩序における力

  原則と目的

  追記

E H Carrとは何者か。実はしっかり知らない。ボワボワとしか。

山中仁美著『戦争と戦争のはざまで-E・H・カーと世界大戦』

戦間期国際政治とE.H.カー』(岩波書店)も読みたい。