やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

読書メモ『海洋ガバナンスの国際法』瀬田真著

2つ目の博論のテーマは「国際的海洋ガバナンスにおける太平洋島嶼国の役割 ̶BBNJの協議を巡る太平洋島嶼国の海洋政策 ‒」

「国際的海洋ガバナンス」についても議論が必要であると指導教官坂元教授のコメントがあり、急遽『海洋ガバナンスの国際法』(瀬田真著、三省堂、2016年)を開いた。博士論文である。

自らは開発も管理もできない広大なEEZの管轄権をもつ島嶼国をどのように記述しようかと悩んでいた。瀬田論文は独立した旧植民地は多様で沿岸国の海洋管理能力の差が顕著であることを指摘。こうあっさりと書かれて、なんだ共通認識か、と同じ問題意識であることにホッとした。この国家による海洋管理能力の問題はW.T.Burkeなどによって当初から指摘されていたのだ。(同書p17−18)

W.T. Burke, The New International Law of Fisheries; UNCLOS 1982 and Beyond, Clarendon Pres, Oxford, 1994. XXV + 382 pp., ISBN 0-19-825251-X.

もちろん太平洋でも島嶼国政府では管理できないというのは十分わかっていて、1970年代には既に島嶼国のEEZ管理のために、豪州が今に続くPacific Patrol Boar Programmを立ち上げたのである。

同書では今回の島サミットでも宣言文に入った便宜置籍船の事も触れられており、海洋法91条の「真正の関係」が理想であり現実とのギャップが指摘されている。そのギャップの一つが島嶼国が北朝鮮やテロ活動を支援していることだが、そこまでは触れられていない。(同書p206−207)

ともあれ、瀬田論文でUNCLOSの沿岸国の、即ち当方が研究対象とする太平洋島嶼国の海洋管理能力の限界が当然のことのように指摘されていたことは、安心材料が増えた。そしてまさに島嶼国などの管理能力、管轄能力のない、沿岸国の存在こそが「海洋ガバナンスの国際法」につながっている、のでは?
瀬田博士が事例として取り上げている海賊行為(2章)、SUA条約(3章)、船舶起因汚染(4章)はまだ読んでいない。