やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

インド太平洋構想-アセアンの展望

2019年タイで開催された会議で「アセアンのインド太平洋構想、展望」が採択された。気になっていたがシンガポールからの飛行機の中で読むことができた。

アセアン諸国がインド太平洋構想に留保があった事は聞いていた。今回の展望はその態度を180度転換するものだ。そこにはアセアン主導のインド太平洋構想がある。

展望は下記の6つの項目で構成されている。

 

I. BACKGROUND AND RATIONALE

 背景と原理

II. ASEAN OUTLOOK ON THE INDO–PACIFIC アセアンのインド太平洋構想、展望

III. OBJECTIVES 目的

IV. PRINCIPLES 原則

V. AREAS OF COOPERATION 協力分野

VI. MECHANISM 制度

 

気になった表現がAsia-Pacific and Indian Ocean、アジア太平洋とインド洋、だ。確かにインド太平洋構想はアジアが抜けている。それは文字に抜けているだけでアジアこそインド太平洋の中心にあるのだが、それでも「アジア」という言葉がなくなった意味は大きい。だからアセアンが「アジア太平洋とインド洋」という表現にこだわったのがわかる。この短い文書に5回出てくる。

 

そしてインド太平洋構想は、あくまでもアセアンが今までに構築してきた地域協力の枠組みの中で行われることが繰り返し主張されている。具体的には海洋協力、連携、そしてSDGsだ。それを支える枠組みとして次の5つが挙げられている。

  • East Asia Summit (EAS), t
  • ASEAN Regional Forum (ARF),
  • ASEAN Defence Ministers Meeting Plus (ADMM-Plus),
  • Expanded ASEAN Maritime Forum (EAMF)
  • ASEAN Plus One mechanisms.

それはUNCLOS始め国連の条約とアセアン憲章を中心としたアセアン内の条約を尊重するものである、とも書かれている。その中の一つがTreaty of Amity and Cooperation in Southeast Asia (TAC)だ。アセアンの40年間の友好関係を維持してきたものである。

 

5つ目の協力分野で挙げられている3項目も興味深い。最初が海洋協力なのだ。勿論南シナ海の事である。インド太平洋構想が中国の一帯一路構想への牽制の要素があることを思い出せば、この部分はまさに安倍総理の構想に共鳴したものだ。2つ目が連携だ。Master Plan on ASEAN Connectivity (MPAC) 2025 が挙げられているがこれがアセアン内の連携なのか、外部も含むのか?

 

「アセアンのインド太平洋構想、展望」数千年前にインド太平洋の海をつなげたのはみなさんの祖先ですよ、と教えてあげたかった。この話を聞いてスピーチに盛り込んでくれたのは今のところ安倍総理だけである。それで十分だろうって?とんでもない!