やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

「排他的経済水域」水上千之著

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海洋法研究の大家、水上千之先生の「排他的経済水域」

この排他的経済水域という作為的で新たな法的概念の形成過程、現状、議論など100回くらい読まないと理解できない。が、ここが今取り組んでいる博論の要であることはわかっている。

思いっきり人のせいにするが、2月の湧いて出てきたチャタムハウスの受け入れがなければ、そしてコロナで色々な変更作業の煩わしさがなければ、もっときちんと読んでいたはずだ。一度図書館に返します。というかこれは購入して本棚において置くべきだと思いつつ、本が徐々に増えるのが怖い。

 

さて肝心の内容なのだが、ここに「排他的経済水域」の複雑な話を書いてもしょうがないから一点だけ書いておこうと思う。

「排他的経済水域」は領海ではない、という条約の理解はあるが、公海ではないとは条約に入らなかったのである。公海という解釈もあるようだ。そもそも公海とは何か?

水上千之先生は公海でも領海でもない海域という理解。

私が気になっているのが、日本のメディアや「有識者」が海洋法条約の議論を何も知らずに日本は世界第何位のEEZ がある、とまるで領海のように語っていることだ。実はこれは中国の南シナ海での対応に近いし、一番の問題は太平洋島嶼国のその気になっていることだ。何と「海洋大陸」と言い出している。

海洋法条約音痴の外務省大洋州課も、海洋の専門組織と思われている財団も全く疑問の声をあげないどころか「島は小国ではありません。広大なEEZがある海洋国家です」などまるで中共の海洋概念を持っていることだ。

この海洋を領海化する思想がBBNJに繋がっているのだ。それが国際社会に、また小国に何を意味するのか?

水上千之先生、お会いしたこともないが、緻密な議論は惚れ惚れでこんな論文が書けるだろうか、と思っていた。この本を出されたよく年2007年他界されたことを、今知った。

 

<追記>

Share Americaという米国政府のウェブサイトの説明も興味深い。

“International waters” isn’t actually a defined term in international law. To varying degrees, depending on location, all ocean waters are international. For example, in a country’s territorial sea, ships of all states enjoy the right of “innocent passage.” But sometimes the term “international waters” is used as an informal shorthand to refer to waters beyond the territorial sea of any state.

share.america.gov