やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

中国が進出するフィリピンEEZの海底調査(追記あり)

中国の海底調査の海底調査に関する記事が2つ出回って議論を呼んでいたので紹介したい。

f:id:yashinominews:20210331115531p:plain

一つはフィリピンの EEZ内で中国による海底調査の結果、Philippine Rise(Benham Rise)に中国名を5つ命名し、これを国際水路機関が承認した、というニュースだ。

It’s called ‘Philippine Rise,’ so why is China giving Chinese names to its features?

By Shyla Francisco, News5 | InterAksyon | February 13, 2018

http://www.interaksyon.com/its-called-philippine-rise-so-why-is-china-giving-chinese-names-to-its-features/

 

中国軍による調査は2014ー2016年に行われている。

5つの名前は Jinghao, Tiangbao, Haidonquing, Cuiquao and Juijui。

 

Duterte: 'Benham Rise is ours'

'The Philippine Rise or the Benham Rise is ours,' says President Rodrigo Duterte

https://www.rappler.com/nation/195709-duterte-ph-owns-benham-rise

上記の記事には中国政府がフィリピンにPhilippine Rise の領有権はない、と昨年3月のコメントしている事が書かれている。これに関する記事もあった。

 

PH can't say Benham Rise is theirs, China argues

China confirms some of its research vessels passed through the Benham Rise area in 2016, saying it was 'exercising navigation freedoms and the right to innocent passage only'

March 13 2017

https://www.rappler.com/world/regions/asia-pacific/164049-china-reaction-philippines-benham-rise-claim

この記事によると確かに中国政府はフィリピンのEEZに同国の領有権はない、と主張しているようだ。確かに領有権はないが、管轄権は海洋法で認められている。ということは中国はフィリピン政府の許可なく海底調査をした、ということであろうか?

下記に日本外務省のウェブにある情報を貼っておく。*

 

なんで国際水路機関は中国名を認めたのであろう?国際機関なので海洋法に沿って手続きがされているはずだが。

下記の国際水路機関に提出された中国の書類では、Jinghao海山が発見されあtのが2004年。中国が国際水路機関に申請したのが2015年とある。

 

UNDERSEA FEATURE NAME PROPOSAL

https://www.iho.int/mtg_docs/com_wg/SCUFN/SCUFN28/Proposals/China_CCUFN/18%20Jinghao%20Seamount.pdf

 

 

もう一つの記事は、中国がマリアナ海溝、ヤップ海溝の海底調査をしている、というニュースである。

China intruding into Marianas Trench

February 13, 2018

http://www.pacificislandtimes.com/single-post/2018/02/13/China-intruding-into-Marianas-Trench

和訳

https://www.newshonyaku.com/china/pacificocean/201880213

 

China to Develop More Deepsea Submersibles

https://www.maritime-executive.com/article/china-to-develop-more-deepsea-submersibles#gs.Yc1MCqY

 

Surveillance under the sea: how China is listening in near Guam

http://www.scmp.com/news/china/society/article/2130058/surveillance-under-sea-how-china-listening-near-guam

 

マリアナ海溝は米国の管轄下なので中国は米国の許可を得て調査をした、ということであろうか? 日本のJAMSTECも調査をしている。

法的な背景を知りたい。

 

海洋問題は奥が深い。海洋法自体も奥が深い。私はこの1月山本草二先生の国家管轄権に関する資料を読みながら、ウーウー唸っている。

この海底調査に関しては何も知らない。ウェブサーチしたら鶴田順氏の下記のペーぱーを見つけた。

 

鶴田順、「排他的経済水域における「海洋の科学的調査」−沿岸国による「海洋の科学的調査」規制法の執行可能性に焦点をあてて−」海事交通研究 64, 63-72, 2015。山県記念財団

https://www3.kaiyodai.ac.jp/sip-ocean/report/img/20160609MSR_tsuruta.pdf

 

似たようなタイトルの論文が2017年にも出ている。

2017/02 海洋の科学的調査に係る国際海洋法上の諸問題(神奈川県横須賀市・国立研究開発法人海洋研究開発機構本部(JAMSTEC))

 

上記論文には「現在は、日本の国内法令でそのようなMSR規制法は存在せず、」(p64)、とある。さらに日本でも調査を認めてはいるが、下記の通り問題の多い調査もあるが取締れないまま、とのことだ。

 

「2009年以降、日本の領海またはEEZでは、毎年約30件の外国船舶(外国政府の公船を含

む)によるMSRが日本政府によって確認されているが、そのうち約10件が、同ガイドラ

インに基づく事前の同意申請のないMSR、あるいは、事前の同意申請があり同意を付与

しているが、事前の同意申請とは異なる海域あるいは異なる内容で行われているなど何ら

かの問題のあるMSRである。」p65。

 

EEZでの海底調査の件、「海洋の科学的調査」(Marine Scientific Research; MSR)は法治国家、先進国の日本でさえこの状態だ。フィリピンに規制する法律があるのか?

それより心配なのは、中国の論理でいけば太平洋島嶼国のEEZは中国が自由に調査し命名する事ができるのではないか?

ヤップ海溝の調査をミクロネシア政府はどれだけ認識しているのであろうか?

BBNJ(国家管轄圏外)の議論で気になっているのが、途上国のキャパシティ支援だ。EEZは国家管轄圏内の話になるが日本でも未整備という関連法律整備の支援が重要ではないか、というのがこの1年色々と資料を読んできて思っている事である。

 

* 海洋の国際法秩序と国連海洋法条約 平成29年4月3日http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kaiyo/law.html  より

排他的経済水域(EEZ)

(ア)領海の外側に,領海の基線から200海里を超えない範囲内で設定が認められている。(相対国又は隣接国の間におけるEEZの境界画定は,衡平な解決を達成するために国際法に基づいて合意により行う。)

(イ)以下のような沿岸国の権利,管轄権等が認められている。

[1] 沿岸国は,EEZ(海底及びその下を含む)において,天然資源(生物・非生物を問わない。)の探査,開発,保存及び管理等のための主権的権利を有する。

[2] 沿岸国は,EEZにおいて,人工島,施設及び構築物の設置及び利用,海洋環境の保護及び保全,海洋の科学的調査等に関する管轄権を有する。

 

追記:

日本語のニュースはあまり出ていないが、研究はされているという情報をいただきました。

下山 憲二(海上保安大学校准教授)延長大陸棚上での第三国による海洋の科学的調査―中国によるベンハム海嶺での事例を中心に―

https://www.spf.org/islandstudies/jp/wp/wp-content/uploads/2017/11/7-1-7_sample_shimoyama.pdf

海保の海底地形名に関するレポート

http://www1.kaiho.mlit.go.jp/KOKAI/ZUSHI3/topographic/topographicB6.pdf

2017/05/19(金) ベンハム海嶺資源調査、日本に依頼か

https://www.nna.jp/news/show/1608017

 

以下マニラ新聞のヘッドラインだけだが今まさに動いている件である事がわかる。

2018年2月7日のマニラ新聞から

■ ベンハム隆起調査 中国に便宜との批判で、ドゥテルテ大統領が比以外による学術調査の停止を命令

2018年2月13日のマニラ新聞から

■ ベンハム隆起 国軍参謀総長、ベンハム隆起における外国船排除の命令を受けていないと発言

2018年2月14日のマニラ新聞から

■ 下院、ベンハム隆起の比人調査支援のため、1億ペソの信託基金を設立へ

フィリピンEEZ内の海底に中国が独自の呼称提案、比政府が懸念表明

2018年2月15日

http://www.afpbb.com/articles/-/3162487

2018年2月17日のマニラ新聞から

■ 大統領報道官、中国が命名したベンハム隆起周辺の地形について比政府が命名し直すと発表