永井陽之助先生
太平洋島嶼国の論文を書くために、引用文献の『時間の政治学』を久しぶりに手にした。国際政治学者、永井陽之助先生の論文で、私が太平洋島嶼国に関与して10年近く疑問に思っていた小国とは何かを思いっきり正面から、天辺から教えてくれた。それ以来この論文は自分の論文に何度も引用している。
小国とは、「弱者の恐喝」を確信を持って実行する強かな存在なのだ。「弱者の恐喝」と聞いて眉を顰める人がいれば、単なる無知である。国際政治を、永井陽之助を、小国の研究を単に知らない、といういうことだ。私も永井先生に青学で出会うまではそうだった。
話が横道に逸れるが、2025年7月24日の国際司法裁判所、岩沢所長の気候変動に関する判断はがっかりだ。あれはバヌアツ発信のケースだが、まさにこの「小国の恐喝」である。岩沢判事は、現国際法学会会長濱本教授と共に、インド洋に浮かぶチャゴス諸島の人々の自決権を奪い、数千人のチャゴシアンの未来を奈落の底に落とした人物である。国際政治も、小国論も読んだ事がないのだろう。
さて、本題に戻る。
永井先生の『時間の政治学』は多くの小論が集められたもので、その中に「鯨の象徴学」ベトナムの教訓と米国知識人 という論文もある。この本を90年代に読んだ時はまだ海洋問題にそれほど関心がなかったので記憶になかったが今回読み直して上記の気候変動と海面上昇につながる米国の環境保護運動が、ベトナム戦争のトラウマから来ていることを改めて知った。
なぜベトナム戦争と鯨(保護)がつながるのか。
反共イデオロギーの軍事介入がベトナム撤退と共に米国の威信を失わせた。その代わりに米国は何をすればいいのか?米国の知識人がたどり着いたは環境保護と捕鯨反対運動につながる聖書の「鯨の腹の中にいるヨナ」の存在、即ちオーウェルが予感した世界である。これが日本を悪者にした反捕鯨運動の起源であれば、パリ協定脱退も(米中はそれなりの努力を継続)、メガ海洋保護区反故も、ISAを無視して海底鉱物採掘を推進するトランプ政権は鯨の腹から出てきたヨナなのであろう。そして反共イデオロギーの軍事介入の反省から鯨の腹(子宮を象徴)に閉じ困った米国人を引き摺り出したのが中国の海洋権益拡大というのも興味深い因縁だ。