高成田享著、時事通信社、2009年
魚の本が続いている。
著者の高成田さんはテレビ朝日「ニューステーション」のコメンテーターをしていた新聞記者。アメリカ総局長も務めワシントン通でありながら、日本の地域、特に漁業に関心を持ち、定年後に若いときからの夢であった石巻支局を希望し配置された。
表紙裏に写真があり、アアあのおじさんか!とすぐわかった。知っているおじさんだと思うと読みやすい。
文章はカジュアルだが、内容は濃い。国際政治と石巻の魚が一機に結びつく。
さて、気になる箇所は捕鯨問題である。以前読んだ『解体新書―捕鯨論争』と同じ立場を取る。南洋調査捕鯨反対、沿岸捕鯨賛成。
“南極海での調査捕鯨は水産庁・鯨類研究所・共同船舶という「国策産業」の利益”に寄与するばかりで、日本の国益に百害あって一利なしと一刀両断。これを支持する様に、石巻市議が「沿岸捕鯨の敵はIWCではなく、日本の調査捕鯨ではないか。」という発言を記している。
なぜこのような声が表に出て来ないのか。捕鯨産業が県ではなく、国の許可制度にあるため、日本の沿岸捕鯨関係者が口をとざすか、匿名での発言しかないのだという。
新聞記者という立場でありながら傍観者ではなく、石巻を変えて行こうという姿勢が文章の至所に見える。軽快な筆の運びは石巻の人々や文化を生き生き描き出している。
しかし、読む前には気付かなかったのだが、ここに登場する人々や建物の多くが今回の震災で被害に合われたはずだと思うと、文章の軽快さがコントラストとなって逆に重たい気持ちで読み進むこととなった。
ウェッブサーフィンしたら、著者高成田さんは、東日本大震災復興構想会議の委員、また、震災で親をなくした児童・生徒を支援する「東日本大震災こども未来基金」を立ち上げていらした。
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