やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

商業捕鯨を再開すると南極での活動ができなくなる理由

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美味しそう!
 
 昨日読んだ森下、岸本論文の下記の部分が気になり、これこそ今度の国際法学会の主要テーマ「多元化する条約体制による秩序形成と維持」なのではないかと条約を当たってみた。以下の条項だと思うが違うかもしれない。
 
環境保護に関する南極条約議定書
 附属書II 南極の動物相及び植物相の保存
 第七条 南極条約体制の範囲外の他の合意との関係
 この附属書のいかなる規定も、締約国が国際捕鯨取締条約に基づき有する権利を害し及び同条 約に基づき負う義務を免れさせるものではない。
 
南極の海洋生物資源の保存に関する条約
 第六条
 この条約のいかなる規定も、この条約の締約国が国際捕鯨取締条約及び南極のあざらしの保存に関する条約に基づき有する権利を害し及びこれらの条約に基づき負う義務を免れさせるものではない。
 

ICRW 第8条

1 この条約の規定にかかわらず、締約政府は、同政府が適当と認める数の制限及び他の条件に従つて自国民のいずれかが科学的研究のために鯨を捕獲し、殺し、及び処理することを認可する特別許可書をこれに与えることができる。また、この条の規定による鯨の捕獲、殺害及び処理は、この条約の適用から除外する。各締約政府は、その与えたすべての前記の認可を直ちに委員会に報告しなければならない。各締約政府は、その与えた前記の特別許可書をいつでも取り消すことができる。

2 前記の特別許可書に基いて捕獲した鯨は、実行可能な限り加工し、また、取得金は、許可を与えた政府の発給した指令書に従つて処分しなければならない。

3 各締約政府は、この条の第一項及び第四条に従つて行われた研究調査の結果を含めて鯨及び捕鯨について同政府が入手しうる科学的資料を、委員会が指定する団体に、実行可能な限り、且つ、一年をこえない期間ごとに送付しなければならない。

4 母船及び鯨体処理場の作業に関連する生物学的資料の継続的な収集及び分析が捕鯨業の健全で建設的な運営に不可欠であることを認め、締約政府は、この資料を得るために実行可能なすべての措置を執るものとする。

(ふと浮かんだ疑問:ICRWからの脱退は同条約から全く無関係になることを意味するのか?)

 
 「環境保護に関する南極条約議定書」と「南極の海洋生物資源の保存」に関する条約の中でICRWが上位にあることが規定されているので、南極での調査捕鯨ができた。今度はIWCから脱退したので「環境保護に関する南極条約議定書」と「南極の海洋生物資源の保存」の二つの条約にしばれ南極で活動ができなくなる、という理解でいいのだろうか?でも日本が脱退したのはICRWを否定したからではなくてその運営に疑問を持ったからではなかったのか?誰か議論していないだろうか?
 実は夏休みに読もうと思って目の前に積んである一冊が「南極条約体制と国際法」(池島大策著)だ。捕鯨の問題は、鯨というより南極権益の問題と思うことが多々ある。南極権益を守るために森下・岸本論文でも指摘している感情的環境保護の話を利用しているようにも見える。(この点はウィキリークスで流れたチャゴスの海洋保護区も同じだ)しかし今、この南極に中国がすごい勢いで進出しているのだ。鯨を利用して日本を排除している場合ではない国際情勢のはずだと思うのだが、私の専門外なので、全くの想像です。
 
p. 85-86 IWC脱退によってなぜ南極で操業できなくなるのか?これこそ国際法の議論である。
それでは、仮に IWC を脱退するとした場合、日本は国際法上どのような立場に立つこ ととなるかを整理する。まず、IWC を脱退すれば、自由に商業捕鯨を再開することがで きるということにはならないということを認識する必要がある。日本は国連海洋法条約、 南極条約、南極条約環境議定書、南極海洋生物資源保存条約等の締約国であり、たとえ IWC を脱退したとしても、これらの国際法の規定に縛られることになり、自由に商業捕 鯨を行うことは出来ない。具体的には、国連海洋法条約では、鯨類の保存管理は適当な国 際機関を通じて行うと規定されており(65 条)、これは排他的経済水域の内外を問わず、 公海についても適用される(120 条)。いわゆる公海漁業の自由(116 条)も、無制限の自由ではなく、65 条や 120 条に従うことが条件であると理解される。 南極条約環境議定書と南極海洋生物資源保存条約では、その規定が、ICRW の締約国の 権利を害したり義務を免除したりするものではないとされている。すなわち IWC にとど まる(ICRW の締約国にとどまる)限りは、ICRW 第 8 条のもとで鯨類捕獲調査を行う権利を持ち、他方、商業捕鯨モラトリアムに従う義務を負うが、日本が脱退すれば、かわり に南極条約環境議定書や南極海洋生物資源保存条約に縛られることとなる。」
森下 丈二、岸本 充弘 「商業捕鯨再開へ向けて −国際捕鯨委員会(IWC)への我が国の戦略と地方自治体の役割について−」より