やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

『繁栄と衰退と ー オランダ史に日本が見える』岡崎久彦著

『繁栄と衰退と ー オランダ史に日本が見える』岡崎久彦著

UNCLOSが基盤としているのがグロティウスの「自由海論」で、そのグロティウスを生んだオランダの特殊な立場や歴史を知りたくなった。

 岡崎久彦著『繁栄と衰退と ー オランダ史に日本が見える』はEllis Barkerの "The Rise and Decline of the Netherlands: A Political and Economic History and a Study in Practical Statesmanship" を下敷きにオランダ史をなぞりながら、日本と比較する興味深い本である。

 オランダはヨーロッパの中でも自然環境が厳しい土地で、人々は昔から勤勉で優秀であったという。「1421年の大暴風雨では一夜に七十二の村落が壊滅し、十万人の命が失われた」とある。

 そしてその個人主義自由主義スペイン帝国から異端者として嫌われ虐殺と支配を受けてきた。1581年に独立を宣言。グロティウスの自由海論はこんな背景をもって誕生したのである。

 オランダは独立を遂げたものの、支援者であるはずのイギリスやフランスを裏切るような金儲け優先の行為を取る。何百万人もの同胞を虐殺したはずのスペインの利に合うことをしてしまう。

 ニュージーランドで、時々「ダッチにしましょう。」と言われる。割り勘にしましょう、ということだそうだ。あまり一般な表現ではないが、お財布の紐が固い、譲り合わない、そんなオランダ人への偏見から生まれた言葉のようである。

 オランダからの移民と親しくなると、イギリスが主流の豪NZの社会で同じ移民でありながら差別がある、とも聞く。

 ニュージーランドはオランダのジーランド州から名付けられた名だし、オーストラリアはニューホーランドと呼ばれていた。両国を最初に「発見」したのもオランダ、ジーランド州出身のタスマンである。

 外交官であった著者の意見が興味深かった。

 オランダの政治的弱さが中央集権的でなかった事を指摘しつつ、著者が外務省にいるとき「外務省のため」という表現に徹底的に反発した、という。首相にまで進言したらしいから世に言う「省益あって国益なし」は本当なのだと思わずにはいられない。

 外務省が掲げる「太平洋の海洋外交」。他の省庁とどこまで調整されているのか?また政治家はどのようにリーダーシップを取っているのか、いないのか?