やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

『帝国主義研究』矢内原忠雄著(1948)

帝国主義研究』矢内原忠雄著(1948) 白日書院

(なお、同書には現代では適切でない表現があるがそのまま使用します。)

19世紀後半から20世紀始め、日本のベストアンドブライテストが太平洋の小さな島々を研究していた。

東大総長になった矢内原忠雄もその一人。

戦前東大で植民地政策について講義をしていた矢内原は戦後、国際経済論を(意に反して)教える事となった。しかし昔の資料が使えず不便であったためまとめたのが、この『帝国主義研究』である。

古書で野口英世さんが2、3枚で入手できます。

この中の一章が「植民地政策より見たる委任統治制度」である。

非植民地化の中で自由連合という政治形態が生まれた事はこの前にブログに書いた。

大雑把に言ってしまえば、その前が、第2次世界大戦後に制定された「信託統治制度」の形態である。そしてその前が第1次世界大戦後に制定された「委任統治制度」。

よって「委任統治制度」を知ることは重要なのだ。

矢内原は第一次大戦の副産物である委任統治制度を「沿革的」、「法律的」、「政治的」、三方面から考察している。

矢内原によればこの「委任統治制度」は南アフリカ連邦の政治家ヤン・スマッツ将軍が提案し、米国大統領ウィルソンが名案としてドイツ植民地にも拡張すべきと主張した、とある。

即ち連合国の秘密協定で日本が領土併合する予定であったミクロネシアの島々は委任統治となった。

委任統治はA、B、C式に分けられるが各受任国の領土的要求の反映に外ならない、妥協の産物、と指摘している。

「法律的」の項は、主権がどこにあるかについて論じている。「政治的」の項では委任統治制度は国際政治機関の監督下にある事において異なるが植民地制度と変わらない、としている。

次に矢内原が論じているのは委任統治制度における「門戸開放通商自由主義」である。資本主義国の排他独占的対立を緩和する方法であると共に帝国主義の埒内において行われる一政策に過ぎないと指摘。

次に論じているのが「委任統治制度と住民の保護」である。

委任統治制度は土著人民の福祉および発達を計る義務を保障している。

矢内原は植民地における土民保護の問題は19世紀の初めの自由主義時代に奴隷売買に対する反対運動であり、アフリカにおける土民の問題ではなかった、と論ずる。他方、植民地政策が貿易から植民地への投資による資源開発が中心になった結果、土人の人口保存及び生産力の涵養発達が資本の要求となった、としている。

即ち委任統治制度の土民保護は植民地経営政策を反映しており、資本の非開明的搾取を否定はしているが必ずしも合理的搾取を否定していない、と論ずる。

最後に委任統治制度の歴史性を論じている。

委任統治制度は1885年のベルリン条約、1890年のブラッセル条約の継承である、という。

委任統治制度が帝国主義の一制度であると断じながらも、その中に含まれている非併合、通商自由、及び住民保護の原則等は帝国主義を超える要素である、と。そしてすごいなと思ったのは第二次世界大戦が避けられないとしても(論文は1937年、昭和12年7月に書かれている。)その戦後にはさらなる非帝国主義的植民地統治が設けられるであろう、と予想していることである。

この論文のタイトルの副題に「故新渡戸稲造博士にささぐ」とある。ビスマルク特集で紹介している高岡熊雄博士も新渡戸稲造の弟子である。

この本、以前より手元にあるが難しくて一読しただけであった。

今回読んで見て一文一文に衝撃を受けている。

矢内原忠雄が今生きていれば自由連合について洞察ある見解が聞けたであろう。

いつもながらうまくまとめきれなかったが、取りあえずメモだけしておきたい。