沖縄旅行の鞄に数冊の本を入れた。
その一冊がマーガレット•マクミランの『誘惑する歴史』
ベルサイユ会議を扱った"Paris 1919"の中で「民族自決」という現在の小国が誕生するきっかけともなった危うい提案をしたウィルソンをフルボッコしている。彼女の歴史に対する姿勢を知りたいと思った。
原題は "The uses and abuses of history" 「歴史の使用と濫用」。訳者あとがきには 「Dangerous Games 危険なゲーム」と題をつけた出版社もある、との事であった。
記憶に留まった3点を書き出したい。
<ホロコーストの証言>
「私たちは繰り返し発言しているうちに、記憶に磨きをかけて粉飾することもある。」(同書50頁)
イスラエルのホロコースト記念館のディレクターはオーラル•ヒストリーの大半は信用できないと悲しそうに述べた事がある、とある。(同書50頁)
吉田証言は世界中にある現象なのだ。
<ウィルソンとドイツ>
マクミランの分厚い"Paris 1919"を全部きちんと読んでいない。
第一次世界大戦後ウィルソンとドイツが裏でつるんでいた事も書かれているかもしれない。
「第一次世界大戦後、ドイツはヴェルサイユ条約の正当性を傷つけるために別のやり方で歴史を武器に使った。」(同書102頁)
ドイツ人はドイツが敗れた理由を、国内の社会主義、平和主義、ユダヤ人のせいにした。
「ドイツ政府はアメリカ合衆国大統領、ウッドロー•ウィルソンとメモを交わしていた。(略)ドイツに関する限り、連合国との休戦は、正義と諸民族との権利を基盤に新しい平和的な世界の図式を描いたウィルソンの14箇条を基礎とするものだった。」(同書102頁)
ウィルソンの14箇条とヴェルサイユ条約は、矛盾するものだったのだ。
そうであればこの2つの矛盾を国際連盟は、新渡戸稲造は背負っていた事になるのではないか?
そして、ドイツと米国の裏取引は、日本がミクロネシアを委任統治する事を猛烈に反対した米国の反応につながるのではないか。
米国の移民の多くがドイツ人であり、ドイツと米国は経済的に強いつながりがあった。
ヤップを巡る海底通信ケーブルがその象徴だ。
<マクミランの日本像>
「日本人は西ドイツと比べられ、好意的に見られないことが多い。」(140頁)
中国への侵略、虐殺を認めず、オーストラリアのように、長崎、広島を出して自分たちが犠牲者であると主張してきた日本は、1970年代までに教科書に南京虐殺を叙述するようになった。1980年代になってナショナリストは日本の侵略と虐殺を押さえ込もうとした、とマクミランは記述する。
一体、マクミランは「南京虐殺」についてどれだけの事を知っているのであろう?
日本の植民政策についてどれだけの事を、当時の中国の事についてどれだけの事を知っているのであろう?
同書の結びで、マクミランは9.11の米国の反応を批判する。
パールハーバーが何であったのか知っていれば、9.11をパールハーバーに例えなかったであろう。十字軍がなんであったのか知っていればブッシュ政権はその言葉を使わなかったであろう。
マクミランは、歴史が役に立つのは、その研究が謙虚で、懐疑的で、自らを自覚する事を教える時だけ、だとする。そして、真実を一気に暴いたと主張する人々に用心すること。最後にいつも注意しながら、歴史を使用し、楽しむ事をアドバイスしている。(同書178頁)
近現代史を学ぶ時必要なのは、この最後のアドバイスではないだろうか?
次はE H Carrの「歴史とは何か?」を、サラッと。
歴史にif はない、の誤用、濫用を指摘したいと思います。