やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

『海洋の国際法構造』ー大陸棚と海洋法秩序

「第4章海底資源の開発」の2節目は「8. 大陸棚の法的地位」

ここでは大陸棚の存在とそこにある油田の発見が各国の管轄権、主権の拡大主張に繋がっていく背景から書かれており、国際政治も垣間見え興味深い。このような各国の主張が国際法上どのような意味を持つか、が同論文では議論されている。

著者は大陸棚領有に理解を示しつつも、無主地の領有について実効的独占が超歴史的な絶対的な概念として存在したわけでないことを、ローターパクトの主張、植民地時代のアフリカ分割を例に、歴史的条件と限定された空間の分割に意味を持っただけに過ぎないことが説明されている。P. 188-189

そして大陸棚の権利を主張する沿岸国の「隣接性」の観念が取り上げられる。(p. 192から)ここはBBNJの議論にも応用できるので注意して読みたい箇所である。ここで支配の実効性と観念的占有、すなわち国家の宣言によって国家領域への転換が行われる危険性などが議論されている。小田教授は、問題とすべきは慣習法ではなく空間の基本的秩序であると説く。大陸棚、海底近くがどのような形で国際法秩序の中に存在するかを多くの学説が認識していない、と。p. 200

 海底地殻一般の法構造では、大陸棚が最近まで国際法学の対象ではなかったことを指摘しつつも、それが国際法社会の基本的2つの秩序、即ち陸地と海洋、国家独占か国際社会の共同利用か、というアナロジーで理解するしかない、と書かれているところはシュミットを思い出してしまう。p. 214 そして大陸棚議論のきっかけとなったトルーマン宣言は陸地のアナロジーではなく、少なくとも表面上は大陸棚の鉱物資源に対する統制と管轄で、国家領有に転化しうる法秩序を目指していなかった。P. 216-217 そして大陸棚は海洋の法秩序が適応されるべきで、領海外の公海で外国船舶が漁業を行うように沖合の海底石油開発が外国によって行われることに違法性があるとは考えられない、大陸棚理論は十分な検討が必要、と結ぶ。ここもBBNJの管轄権拡大議論と重なるかもしれない。

小田滋教授の『海洋の国際法構造』。1950年代の海洋法の議論が新鮮で結局全部読んでしまった。面白かったけど小国の論文書くのが1週間遅れてしまった!