やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

アダム•スミスと日本の南洋統治

225px-Inazo_Nitobe.jpg200px-AdamSmith.jpg
日本の南洋統治(台湾とかもそうかもしれません。)が西洋の植民地と違ったのは、新渡戸稲造が、矢内原忠雄がアダム•スミスを継承したからである、とこのブログに書いておきながら、関連資料はつまみ食いでしか読んでないので、まずは矢内原忠雄の『帝国主義研究』を再び開いた。 以前読んだ時は難解だったが、今回も難解である。 この中にある「植民地政策より見たる委任統治制度ー故新渡戸博士にささぐ」は日本の南洋統治を搾取と誤解している人に是非読んでいただきたい。 まとめるだけの力がなく申し訳ありません。 矢内原研究は奥が深いようで、どのような研究がされているか、というのを研究したペーパーを見つけた。 岡﨑滋樹、「矢内原忠雄研究の系譜 ― 戦後日本における言説 ―」第 24 号 『社会システム研究』24号、2012年 3 月 http://www.ritsumei.ac.jp/acd/re/ssrc/result/memoirs/kiyou24/24-11.pdf スミスに関連して論じているのは下記の2つのペーパー。 飯田鼎「矢内原忠雄日本帝国主義研究」(1982.4)三田学会雑誌75巻2号 http://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/download.php/AN00234610-19820401-0035.pdf?file_id=77260 矢内原勝「矢内原忠雄の植民政策の理論と実証」(1987.10)、三田学会雑誌80巻4号 http://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/download.php/AN00234610-19871001-0001.pdf?file_id=76598 それから日本の軍事占領期から既に現地住民の保護をしてきた事が下記のペーパーにある。興味深いのは、教育のある島の人より、島に移民してくる日本の東北地方の農民に教育がない事を当時心配した事が書かれている。 飯高伸五「日本統治下マリアナ諸島における製糖業の展開 : 南洋興発株式会社の沖縄県人労働移民導入と現地社会の変容」1990, 史学 69(1), 107-140, 1999-08 http://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/download.php/AN00100104-19990800-0107.pdf?file_id=60042 1919年、日本がミクロネシア委任統治をする事になって、新渡戸稲造国際連盟の事務次長になった事がきっかけで、矢内原忠雄が東大で植民地政策を教える事になったので、当初のミクロネシア統治は新渡戸の影響があったのではないか、と想像するが、まだその文献は見ていない。 新渡戸稲造はアダム•スミスの蔵書を140冊所有しており、今は東大にアダム•スミス文庫として所蔵されている。このスミスの蔵書に関しては水田洋著「アダム•スミスの蔵書」に詳しい。 最後に、私がアダム•スミスに出会ったのは、アマルティア•センの『自由と経済開発』である。この出会い方は幸運だったと思っている。原文で『国富論』の植民地の章は読んでみた。これを読む前と読んだ後では、矢内原論文は随分違って見えて来る。