「先生の言うことを信じてはいけませんよ。」
そう先生は言って、ニュージーランドのある高校の歴史授業が始まった。
知り合いのお母さんから聞いた話だ。
その歴史の先生は1年間通じて、ナチスの話を取り上げたらしい。
生徒はナチスの将校達の名前を全て覚えるほどに詳しくなった。
「偏った歴史観を押し付けない、というけど、偏ってないかしら~。」
と、知り合いは心配を装っているが顔は笑っている。
日本とニュージーランドを行き来する女医さんだ。
私の高校の歴史の先生も変わっていたかもしれない。
教科書は使わなかった。『中世の光と影』(堀米庸三著)を1年間読んだ。
歴史教科書が大嫌いだった私には新鮮な授業だった。でも追いつけなかった。
「客観性」のみで歴史を記述しようとした試みをE.H.カーは否定している。歴史には著者の「主観性」が含まれており、それを見極めることが重要である、と。
「先生の言うことを信じてはいけませんよ。自分で考えなさい。」
という先生の教えは正しい。
(文責:早川理恵子)