『後藤新平ー外交とヴィジョン』北岡伸一著 中公新書 昭和63年
1988年の北岡先生の著書である。
後藤新平の植民論を概観するのに、貴重な資料である、と思う。
しかし、北岡先生の後藤評価は若干の疑問が残る。エビデンスが不明瞭である。
たとえば。
「後藤は台湾赴任早々、巨大な総督官邸を建設し、台湾の阿房宮と言われた。しかし後藤は、本当なら附属のオペラ•ハウスまで作りたかったほどだと反論している。そこには巨大な建設によって台湾住民を威圧する狙いがあった。」(同書55頁、下線当方)
「台湾住民を威圧する狙い」とは、北岡先生の勝手な考察か、それとも後藤がどこかでそれを言っているのか?
後藤新平は、朝敵の子として「植民」された側なのだ。
当時、岩手の方言が理解できず、聡明な岩手の子供達が教育受けた。
その一人が後藤新平で、安場保和(熊本生まれ)が後藤の非凡を見抜いた。後藤新平はこの安場の次女和子と結婚する。
こんな経験のある後藤新平が、植民する側から相手を威圧しよう、と思うだろうか?
北岡先生、「私は安倍さんに『日本は侵略した』と言ってほしい」という立ち場のようだし。
まだまだ後藤新平の世界の門をくぐったばかり。柔軟な視点で読み進めたい。