やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

渡邉昭夫編著『21世紀を創るー大平正芳の政治的遺産を継いで』PHP研究所, 2016

年賀に渡辺昭夫先生から「白鳥の歌」のリストをいただいた。

渡辺先生が一作ごとにswan’s songのつもりで書かれた作品の一つが『21世紀を創るー大平正芳の政治的遺産を継いで』(PHP研究所, 2016)である。 公文俊平氏と渡辺先生の単独の論文の他に座談会形式で3つのテーマが議論されているが、

やはり私には渡辺先生の「国際政治家としての大平正芳」(第一部、第二章)が一番印象に残った。

渡辺先生からは1997年に青学にいらした時にその門を叩いてからもう20年近くご指導をいただいている。安全保障のご専門家なのだが、ガチガチの安全保障観ではなく、絵画から音楽、文学となんでも含む安全保障なのだ。

大平正芳の安全保障観にその源泉がある事を同書で知った。下記に引用する。

「したがって、これまでの「集団安全保障体制ですら不十分」であり、「内政の充実をはかるとともに、経済協力、文化外交等必要な外交努力」の強化がこれに伴われなければならない。「安全保障は軍事力だけではなく、政治、経済、外交、文化、科学もろもろの複合的な力によって形成されているのだから、軍事力を軽視することはできないが、これを偏重する考えはとらない。」」(同書、112頁)

 

私は、渡辺先生を通して大平元総理にも接していた事になるのではないだろうか? 沖縄の離島において中国の脅威に対応する形で「伝統的安全保障」が強化されて行く中、島の文化、歴史、人々の教育、福祉が同時に支援されるべきである、と考えこのブログでも書いている。それは勿論渡辺先生の影響があるのだが、大平総理もそういう考えであったのかもしれない、と思うと心強い。 しかし、同書には太平洋島嶼国の事は書かれていない。 大平正芳元総理が太平洋に、その島々に特別な関心を持たれた事は断片的に色々な文章で読んで来たが、まとまった形で見かけた事はない。 笹川太平洋島嶼国基金は大平正芳元総理の太平洋島嶼国への思いを受け継いで設立した、と財団の誰かが言っていたが、これは笹川会長に聞けばわかるであろうか?