やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

高坂正堯著『海洋国家日本の構想』追記あり

今年の第8回島サミットに関する記事の執筆依頼を受けて「海洋国家日本」という言葉が頭に浮かび、急に高坂正堯著『海洋国家日本の構想』が読みたくなった。

過去に何度か手に取っているが内容の記憶がない。

1964年に書かれた同論文は、マルタのパルド大使の67年の演説前だった。つまりパルド大使の有名な国連演説は十分予想された内容だった、ということかもしれない。

今読むと非常にモデレートな主張だが、50年前は注目を浴びるほど刺激的だったのだ。

一箇所、引用しておきたい。

「そして、それとともに国際法の原則であった海洋の自由という原則は不十分になり始めるであろう。この原則は、海洋が軍事的な意味と貿易のための公道という意味しか持たないときに妥当した原則であった。しかし、いまや海は資源としての意味をもち始め、その重要性を増していくであろう。それは今までの海洋の国際法秩序に衝撃を与えるものである。それは現に、漁獲高の制限や大陸棚の問題で、我々にむつかし問題を投げかけているのだ。」177頁

そして注にある中国の海洋兵力について「特に海洋を超えて進出する能力はゼロに近い。… 中国の周辺は2、3の例外を除いて、目立った地理的障壁によって区切られている。」(190頁)と書かれている部分にも目が止まった。現状を高坂先生はどのように分析するであろう?

以上「高坂正堯著作集第一巻」(都市出版、1998)から。

<追記:ある研究会で発表する資料を作成していたら、まさに高坂正堯先生の「海洋国家日本の構想」は海洋法議論のど真ん中に位置していたことを発見!>

関連する国連決議等

1955年バンドン会議

1960年に採択された「独立付与宣言」 1514(XV)(フルシチョフの靴事件)

1962年「天然資源に関する永久的主権」 1803 (XVII)

1964年 高坂正堯「海洋国家日本の構想」

1967年 マルタのパルド大使の4時間に渡る国連演説。

1973-1982年 第3次国連海洋法(1958年UNCLOSI, 1960年UNCLOS II)

1974年「新国際経済秩序樹立に関する宣言」「諸国家の経済的権利義務憲章」