やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

新渡戸稲造と矢内原忠雄

読書メモ「新渡戸稲造の植民思想」平瀬徹也

続いて新渡戸の植民論を扱った下記のペーパーのメモ。 これも以前読んで再読したいと思っていた論文だ。 平瀬徹也 「新渡戸稲造の植民思想」『東京女子大学附属比較文化研究所紀要』 (通号 47) 1986 年 筆者の平瀬徹也氏は東京女子大学を2002年頃退官された…

読書メモ『植民学の成立』田中慎一1982

このペーパーは、日本の植民学がどうなっているのか専門家のアドバイスを聞いてから再読したい、と思っていたものだ。同志社大学で幸い植民政策で博士を持っている若手研究者にお会いできたので期待していたのだが、日本の植民学、植民政策、植民は海外から…

読書メモ『日本帝国と委任統治』等松春夫著

この読書メモは自分のために書いているんだが、結構アクセスがあって少しは世の中に役に立っているのかもしれない。 書くと忘れないし、後で確認する時に検索できて楽なんだ。 さて、ハウスホーファーの「太平洋地政学」に戻ると宣言しておきながら、立作太…

読書メモ Japanese Southward Expansion in the South Seas and its Relations with Japanese Settlers in Papua and New Guinea, 1919-1940

ハウスホーファーの太平洋地政学を読み始めたのだが、横道に逸れたまま元に戻れない。 この岩本さんの論文の一部をメモして、戻りたい。 岩本洋光さんはオーストラリア国立大学で小磯嶺吉を扱った博論を書かれた方ではないか、と思う。 この文献も読もうと思…

読書メモ『南洋委任統治問題』(「立作太郎、国際連盟協会発行、昭和8年3月)

ハウスホーファーの「太平洋地政学」読みながら、横道に逸れ、ドイツ地政学(即ちハウスホファーではないか?)の影響を受けたらしい蝋山政道の論文を矢内原先生が「自殺的矛盾」と批判していたのを思い出して、矢内原の「南洋委任統治論」を再読したところ…

読書メモ「東亜協同体論」における理想主義 ー 今井隆太

ハウスホーファーの太平洋地政学からどんどん横道に逸れつつあるが、蝋山政道の「東亜協同体論」(ハウスホーファーの地政学に関係しているのでは?)について下記の文献をウェブで見つけたので印象に残った箇所を引用しておきたい。 今井隆太、「東亜協同体…

読書メモ『南洋委任統治論』矢内原忠雄

高木彰彦教授の「雑誌『改造』にみられる「地政学」の記述について」には地政学の論文を書いた6人が紹介されているが、その中でも蝋山政道に2頁以上(他は半頁程度)費やされていた。蝋山の地政学にはドイツの地政学の影響があったのだ。 それで以前読んだ…

読書メモ『植民政策より見たる委任統治制度』矢内原忠雄

五十嵐元道著、「国際信託統治の歴史的起源 帝国から国際組織へ」を読んで、以前読んだ『植民政策より見たる委任統治制度』矢内原忠雄著を再読した。 この論文は矢内原全集第4巻(170ー195頁、岩波書店、1963年)に収められているが、出版されたのは昭和12…

読書メモ「雑誌『改造』にみられる「地政学」の記述について」

昨晩偶然見つけた高木彰彦教授のペーパーの読書メモ。 「雑誌『改造』にみられる「地政学」の記述について」 https://catalog.lib.kyushu-u.ac.jp/opac_download_md/3707/KJ00004171961.pdf 1980年に国際関係論の中で議論が開始した「批判地政学」の視点で日…

後藤新平とパリ講和会議

ウィルソンの平和の14か条をドラフトしたウォルター・リップマンを読んでから、1919年に後藤新平が新渡戸を連れてパリ平和会議に参加した事が書かれている『決定版 正伝 後藤新平 7』が読みたくて、年末図書館で借た。 後藤は6千億円の芝居見物(第一次…

横井小楠の外交政策

日本の南洋統治を矢内原忠雄が研究し、その矢内原の植民学の先生が新渡戸である事を知ってこのカテゴリを設けて情報を収集して来た。 数年前に新渡戸に関心があると、日本財団参与の鳥井啓一さんに言ったら、後藤新平をすすめられた。 矢内原より新渡戸の方…

「愛国とノーサイド 松任谷家と頭山家」三島由紀夫と私の共通点!

インド太平洋構想から、勘で頭山満を検索していたら何とユーミンに辿りついてしまった! yashinominews.hatenablog.com そのことが書かれている「愛国とノーサイド 松任谷家と頭山家」(延江浩著)を図書館で借りて読み出したら止まらない。 頭山家にかまつ…

『大アジア主義と頭山満』葦津珍彦著ーレーニンと頭山内田は仲間?

インド太平洋構想の原点を探る知の旅。 インド太平洋構想ーカール・ハウスフォーファーにつながり、そしてここから先は勘だが、ハウスフォーファーが会っていた後藤新平は玄洋社と関係がある、ということであれば頭山満の大アジア主義を読まないと考えた。 …

駄場裕司著『後藤新平をめぐる権力構造の研究』

(駄場様、お名前間違えて申し訳ありませんでした) 後藤新平の植民政策を論じた資料はないでしょうか?と京大のN教授に思いきって尋ねたところ、駄場裕司著『後藤新平をめぐる権力構造の研究』(南窓社、2007年)を教えていただいた。 著者の駄場裕司氏は、…

京都寺町通りの横井小楠の碑

後藤新平の日本膨張論に出てきた横井小楠。 いつも通る、同志社大学への通学路上に、暗殺された場所があって碑が立っている。 昭和7年に再建、とあるから1932年。新渡戸が亡くなる前年だ。 少なくともその頃までは多くの人の記憶にあったのであろう。 『国…

後藤新平の博士論文は36頁

岡山大学姜克實教授の後藤新平の論文に興味深い事が書いてあった。 1890年、ドイツに留学した後藤は3ヶ月で博士号を取得する。博士論文はドイツ語で36頁! 論文名は「衛生行政と公衆衛生ー日本と他国の比較視点」 そしてその後藤のドイツ語の力を育てのが…

後藤新平の国家衛生思想

はやり、1冊分のホロコースト関連資料を読むのは精神的に良くないような気がする。 以前ハンナ・アーレントの映画を観た後も、しばらく重い気持ちが続いていた。 ナチスの「人種衛生学」という文字を見て気になったのが後藤新平の「国家衛生思想」。 後藤の…

後藤新平の植民政策(7)対清政策

藤原書店が2005年に出した「正伝・後藤新平」4巻は満鉄総裁時代を扱っている。 「厳島夜話」の前に「対清政策」(p. 402-486) があって、これも読んでしまった。読んだと言っても当時の歴史的背景やあそこら辺の地域の事を何も知らないので、とても正しく理…

後藤新平の植民政策(6)「厳島夜話」後半

厳島夜話の舞台となった広島の岩惣 伊藤に新旧大陸対峙論を披露した後、後藤は感想を書いている。 この新旧大陸対峙論は、後藤が児玉との最後の会談に述べた内容であった。児玉は翌朝死去する。よって後藤は児玉から4時間に渡って説得されたが躊躇していた…

後藤新平の植民政策(5)「厳島夜話」

いよいよ「厳島夜話」である。現代語に編集して下さった藤原書店さんには本当に感謝したい。スラスラ読めるだけで大分違う。 「厳島夜話」(p. 487-526)は、1.伊藤博文に大アジア主義を説く 2.新旧大陸対峙論の提唱、3.伊藤の快諾、 4.藤・桂両公の遺…

後藤新平の植民政策(4)満州植民

小島嶼国の誕生の背景に英国のコモンウェルスがある。これを発想したのはチャタムハウスを創設したライオネル・カーティスで、彼は後藤新平にも新渡戸稲造にも会っている事を知って、放っておいた後藤新平の植民政策を再度確認したいと思い、本を手にした。 …

後藤新平の植民政策(3)文装的武備

後藤新平の植民政策について無体系に読み散らかしている。 藤原書店が鶴見祐輔著の『正伝 後藤新平』8巻を発行。4巻が満鉄時代を扱っており、(2005年、藤原書店)後藤の植民政策を知る文章がいくつかありそうなので手に取った。特にここには「大アジア主…

梨木神社便り

通学路の途中に萩で有名な梨木神社がある。 京都御苑の一角にある神社の脇道は楠が天高く茂って、歩くのに最適だ。 萩が好きな新渡戸も来たのであろう、と想像するとまた特別な場所に思えて来る。 4月訪ねた時はまだ、20センチくらいの枝だけだった萩が、…

後藤新平の植民政策(2)「日本植民政策一斑」

大正3年5月20日、6月5日、6月20日の3回、幸倶楽部で行われた後藤新平の講演の記録「日本植民政策一斑」が国立国会図書館デジタルコレクションで読める。 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/980879?tocOpened=1 先にも書いたが昔の漢字、文章がわから…

後藤新平の植民政策(1)

もう2年前になるが日本財団の鳥井参与から、後藤新平の本が御厨教授が中心となって藤原書房から出ている事を教えていただいた。 新渡戸稲造を台湾に誘ったのが後藤である。 名前は知っていたが、矢内原、新渡戸を知るだけでも自分の残りの人生では足りない…

『コモンウェルスとは何か』山本正・細川道久編著

図書館で海洋関係の本を探していたら偶然見つけた本。 英国のコモンウェルスを理解せずに太平洋島嶼国は、世界の小国問題は理解できないのだ。 しかし、このコモンウェルスに関する研究所は少ない。 『コモンウェルスとは何か』(山本正・細川道久編著、ミネ…

「戦前日本企業の南洋群島進出の歴史と戦略」丹野勲

ミクロネシアの、即ち太平洋の、遠洋漁業は、南洋庁時代に、即ち日本の統治時代に、日本が、というより沖縄の海人が、開拓したのである。 FAOの資料(Robert Gillet, "A short history of industrial fishing in the Pacific Islands" 2007)を読んで始めて…

ハリウッドと民主党

米国の政治はよくわからないが、ハリウッドと民主党の「ビッグタイム」を教えてくれた共和党の知人が下記のニュースも教えてくれた。 Liberals get hysterical over the 'alt-right' but we are living in their 'alt-left' world By Dan Gainor December 02…

ロスアンゼルスを訪ねて-音楽家Stanley Wilson

友人から、父親がハリウッドの音楽家で有名である事は何度か、会話の中で聞いていたがあまり気に止めていなかった。 今回ユニバーサルスタジオ内の通りの名前にその名があることを実際に目にしてスゴイ人である事を知った。 ウェッブサーチするとWilson氏に…

ハリウッドの赤狩りとレーガン。そして海洋安全保障

友人がアレンジしなかったら絶対に行かなかったであろう。 ロスにあるロナルド・レーガン博物館。 カリフォルニア州知事を務めたレーガンは、40代大統領となり冷戦を終結させた重要な人物であった事を博物館を訪ねて思い出した。 彼の父親がアイリッシュの…