やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

新渡戸稲造と矢内原忠雄

清瀬弁護人が弁護した<東亜の解放>の真実

前のブログで、矢内原、蠟山の植民地議論を若干知っている当方としては、東京裁判での清瀬弁護人による<東亜の解放>の弁護がかなり厳しいものであと書いた。 矢内原と同じ新渡戸の生徒である芦田均の『第二次世界大戦外交史』に「第35章大東亜共栄圏の構…

東京帝国大学植民政策講義(3)新渡戸博士の講義

東京帝国大学植民政策講義、開講後2時間もせずに50人の参加がありました。 ありがとうございます。 生まれ変わったら新渡戸稲造研究者になりたいと思い、新渡戸が訪ねたであろう、今はイタレスになっている京都東山の竹内栖鳳邸に無銭飲食で入り浸り(従業…

東京帝国大学植民政策講義(2)英国植民政策

矢内原全集をどのようにまとめようか植民政策研究の全5巻目次を眺めていたら見つけたのが英国植民政策に関する小論である。 後藤新平も台湾植民に関して当時の英国が香港で行っていた科学的植民政策を参考にしていた。日本がアジア太平洋の植民地解放と叫び…

東京帝国大学植民政策講義(1)

手元に新渡戸稲造全集第四巻と矢内原忠雄全集の一〜五巻がある。 植民政策学を扱った巻である。 私は植民学の専門家ではないのだが、矢内原忠雄がミクロネシアを対象とした南洋群島研究をしており、今書いている2つ目の博論は自決権を扱う(海洋法と太平洋…

矢内原忠雄の植民政策

日本の植民政策学の始祖、そして植民実務者であった新渡戸稲造の弟子が矢内原忠雄で、私は彼の全集の植民を扱う1−5巻だけもっている。中古で一冊500円位で買えた。 委任統治の議論もあり、今書いている博論でも議論したい箇所だ。 しかし矢内原の植民政策…

初めての札幌ー台風・地震・中国人そして国際法学会と北大文書館(5)

初めての札幌。初めての国際法学会に参加するためだった。 しかし本当の目的は北大文書館を訪ねる事だったのだ。新渡戸の植民政策を知ってから北海道大学と日本の植民政策の関係を初めて知った。同大学にはクラーク博士の他に新渡戸の銅像もある。 そしてこ…

インド太平洋研究の必要性 ー 「海のアジア」vs「陸のアジア」

フリードリッヒ・ラッツェル 私が太平洋島嶼国に仕事として関わったのは1991年からで、大の男が4人がけで転けさせたで30億円の笹川島嶼国基金をマイナスの状態から、即ちその目的から策定した。 必死で勉強した資料中で、渡辺昭夫先生が書かれたものが一番…

後藤新平の植民政策(14)植民政策一班

後藤の講演記録である「植民政策一班」から、「第一 緒論及び日本植民政策の史的経済的関係」に続いて 「第二 帝国満州における特殊の使命」をメモする。 私は満州の事や歴史的背景など何も知らないので暗闇の中の読書のようなレベルである。それでも後藤新…

後藤新平の植民政策(13)植民政策一班

後藤新平の台湾植民政策。 「植民政策一班」から、第一 緒論及び日本植民政策の史的経済的関係、の後半。 米国ウィスコンシン大学のポール・エス・ランチ教授 (Paul S. Reinsch) の本の中でいかに日本の台湾植民が優れているか書かれた文書を紹介している。…

後藤新平の植民政策(12)植民政策一班

後藤新平の「植民政策一班」第一 緒論及び日本植民政策の史的経済的関係。日本の植民政策のアカデミックではない、実践と政策が書かれている。 この本が一般に入手できない事、また植民を研究する日本の学者が後藤と言えば「阿片政策」を批判するレベルであ…

後藤新平の植民政策(11)植民政策一班

写真は12,000円で売られている古書。大正10年拓殖新報社発行 後藤新平の「植民政策一班」をメモして行く。中村哲の解題によるとこの「植民政策一班」は大正三年幸倶楽部での講演に、2、3の資料を付加して発表されたものだという。中村氏によれば「植民地…

後藤新平の植民政策(10)

戦争のまっただ中昭和19年に復刻された『後藤新平「日本植民政策一班」「日本膨脹論」』には台北帝国大学の憲法学者であった中村哲氏の解題が掲載されている。 13頁に渡って「日本植民政策一班」の、2頁を使って「日本膨脹論」の要点が述べられ、その後に20…

『ドイツ植民地研究』栗原久定著 (読書メモ)6・7章

6・7章は太平洋諸島と膠州湾。 太平洋諸島は知っている地域なだけな疑問に思う箇所が多かった。引用資料が示されていないので確認できないが、特に価値判断の箇所は誰かの見解なのか、著者の理解・見解なのかが示されると良いと思った。 具体的にはヤップの…

「大日本(上巻)」ハウスホーファー 1913

ハウスホーファーの「大日本 (上巻)」(1913)。ヒトラーに影響を与えた本。 Dai Nihon - Betrachtungen über Groß-Japans Wehrkraft, Weltstellung und Zukunf (大日本の防衛力・世界的地位・将来) 1908−1909年、日本(京都泉涌寺近辺)滞在で書いた報…

再読 駄場裕司著『後藤新平をめぐる権力構造の研究』(追記修正あり)

頭山関連の書籍を3冊読んで駄場裕司著『後藤新平をめぐる権力構造の研究』を再読した。以前より面白く読めたし、少しわかるような「気」がした。 以下、当方の理解と想像。(追記修正しました) 右翼に分類される黒龍社は、玄洋社は、ロシアの、ひいては欧…

『頭山満伝』ー 黒龍会は今でいえばシンクタンク?

井川聡著『頭山満伝』残りの5章を読み進めた。肝心の大アジア主義を理解できるかもしれない、という期待を思って。しかしやはり読めば読むほどわからなくなる玄洋社と頭山満。そして黒龍会なのだ。 8章で孫の頭山興助氏が同様に指摘ていた。やはりそうなの…

『頭山満伝』ー 日本の取るべき道は国権拡充

読めば読むほどわからなくなる玄洋社と頭山満。 『頭山満伝』を読み進めている。読み出すと眠れなくなるので昼間読むことにするほど面白い。 第3章「一人でも淋しくない」にはさらに多くの登場人物が出て来て、しかも右左と入り乱れ、何が何だかわからない…

民権運動と勤皇とー『頭山満伝』

井川聡著『頭山満伝』の第2章「玄洋社起つ」 玄洋社は社会が大きく変わる不安定な時期の血気盛んな青年達を束ねる、今で言うNGOのようなものであったのかもしれない。 玄洋社の三憲則 一に勤皇、二に愛国、三に人民主権 勤皇と人民主権は矛盾しないのだ。そ…

頭山満は女性が育てたー『頭山満伝』

安倍政権の「インド太平洋戦略」を調べているうちに地政学者のカール・ハウスホーファーにぶつかった。ハウスホーファーは後藤新平と会ってる。後藤新平といえば「大アジア主義」。その原点を探っていたら頭山満の玄洋社、後藤の義父安場保和、横井小楠と繋…

浦辺登『玄洋社とは何者か』(弦書房、2017年)

浦辺登『玄洋社とは何者か』(弦書房、2017年) ハウスホーファーのインド太平洋を読んでいると、日本からの影響が大きい事がわかる。が実際にどのような影響があったのか?ハウスホーファーは日本で後藤新平に会っている。であれば後藤新平の地政学に影響を…

『明治の人物誌』星新一著

星新一氏が新渡戸稲造を取り上げた『明治の人物誌』も軽くメモしておきたい。 この本には星新一氏の父親である星一と縁のある下記の10名が取り上げられれいる。 中村正直 野口英世 岩下清周 伊藤博文 新渡戸稲造 エジソン 後藤猛太郎 花井卓蔵 後藤新平 杉山…

『明治・父・アメリカ』星新一(読書メモ)

一体この世の中に新渡戸稲造に関係しなかった人がいないのではないか、と思えるほどその人脈の広さに驚いている。 ウェブ検索中に見つけた「星一」の名前。SF作家星新一氏の父親だ。 彼も新渡戸稲造に出会い人生が変わった。 幸い、星新一氏が父親の交流を研…

密語菴・原三渓・新渡戸

久しぶりに哲学の道を歩いた。 熊野若王子神社の近くに来て「そうだ、ここら辺に新渡戸が住んでいて、新渡戸の崇拝者であり生徒だった和辻哲郎も住んだ有名な家があるんだった。今は梅ナントカさんが住んでいるだったか?」 と思い出して、後でウェブサーチ…

「南洋委任統治問題の帰趨」蠟山政道、改造1933年5月号

日本の国際連盟脱退に伴う南洋委任統治問題について世界中が議論する中で、矢内原忠雄が立作太郎博士の国際法上から議論と、蠟山政道の議論を紹介しているのだが、後者を「思想言論態度は自殺的矛盾」(1933年6月、中央公論、546号。矢内原全集第5巻、論文(…

「ベルツの日記」ハウスホーファーとベルツ

ハウスホーファーが太平洋地政学で、日本人マレイ説を応用している背景には、ベルツの存在がある。 「ベルツの日記」という本がある。 ベルツの日本滞在を綴ったもので、ナチス時代ドイツで出版された。日本で翻訳出版されたのは1939年。 明治9年から明治3…

「ハウスホーファーとラティモアに就いて」

同志社大学の図書館は私にとって宝島のような場所である。 しかも院生しか入れないドアの向こうは宝がザークザク。 ここで見つけたのが日本地政学協会が発行していた雑誌だ。ハウスホーファーの文献がいくつか掲載されている。 その中に5頁の短い論文だが興…

矢内原の帝国主義研究

自決権の向こうにあるのが植民主義であり、帝国主義であり。。 矢内原は帝国主義についても色々書いている。リストアップだけして後で読みたい。 目次に「帝国主義」と書かれたものを拾った。 第1巻 植民及び植民政策(索引には10頁に渡って) 植民政策の…

読書メモ『南洋群島の研究』矢内原忠雄ー情報戦争に参加しない学問

矢内原忠雄全集第3巻に『南洋群島の研究』が入っている。 この中の第7章第4節が委任統治、である。(全集1963年、398-406頁) 1940年に出版された矢内原忠雄の『南洋群島の研究』英文 連盟規約第22条、委任統治の説明と、満州事変勃発に続く日本国内の「…

読書メモ『植民政策より見たる委任統治制度』矢内原忠雄 その2

以前メモした矢内原忠雄先生の『植民政策より見たる委任統治制度』。 矢内原全集第4巻(170ー195頁、岩波書店、1963年)出版されたのは昭和12年7月「国家学会50周年記念国家学会論集」 以前書いた読書メモ 国際法の観点から気になる箇所があったので、忘れ…

読書メモ「国際連盟委任統治問題一件」

等松春夫博士の『日本帝国と委任統治』に引用されていた「国際連盟委任統治問題一件・独逸ノ植民地回復要求関係 第二巻」がウェッブで読めるのである。 「JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.B04122007000、国際連盟委任統治問題一件/独逸ノ植民地回復要求関…