やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

海洋法

初めての札幌ー台風・地震・中国人そして国際法学会と北大文書館(2)

大統領の私的人事としてパラオ国内で閣僚その他大勢から批判されてるパラオ政府代表。今回BBNJでファシリテーター役。 国際法学会でBBNJの日本政府アドバイザーを務める西本健太郎博士の発表があることを知って参加することを決めた。 BBNJ -国家管轄権外区…

海洋法条約の誕生と苦々しいパルド演説

1964年英国から独立したばかりのマルタ。その小島嶼国の大使が国連総会で4時間にわたる大演説を3年後の1967年11月1日した。 パルド演説 ー これが海洋法の流れを大きく変えたのだ。 この演説の記録を読んだ。感想は「???」なのだ。なんでこんな演説に世界…

初めての札幌ー台風・地震・中国人そして国際法学会と北大文書館

昨日地震のあった北海道、札幌から新日本海フェリーの最後の一部屋を奇跡的に確保でき、京都に戻ることができた。 初めての札幌だった。北海道は知床や寿都など地方へのドライブ旅行しかしたことがない。 第一の目的は国際法学会への参加だ。指導教官の坂元…

位田隆一教授の「開発の国際法」論文リスト

海洋法条約もその他の国際法条約も途上国の「開発」が主要テーマなのである。私の一つ目の博論の理論枠組は開発学なのだが、開発学を学んでいる時には「国際法」は現れてこなかった。 「開発の国際法」フランス発で議論されている。坂元教授から教えていただ…

世界の1.89%の人口の小国が世界の半分の投票数を持っている(追記あり)

小国の数のパワーは国連などの国際場裡で痛感する。実際にどの程度の「数」の影響力があるのか以前ウィキデータで試作したところ、面白い結果が出た。 当方の2つ目の博論指導教官、坂元茂樹教授のゴーサインをいただいたので今度は国連の人口データを見つけ…

『海洋の国際法構造』ー大陸棚と海洋法秩序

「第4章海底資源の開発」の2節目は「8. 大陸棚の法的地位」 ここでは大陸棚の存在とそこにある油田の発見が各国の管轄権、主権の拡大主張に繋がっていく背景から書かれており、国際政治も垣間見え興味深い。このような各国の主張が国際法上どのような意味…

『海洋の国際法構造』- 豪州の日本排除と大陸棚

公海におけるビキニ水爆実験の国際法的議論がされているということで手に取った小田滋『海洋の国際法構造』(有信堂、1956)。1950年代の海洋法に議論は特に日本の漁業の関係で興味深く、どんどん読み進めた。最後は「第4章海底資源の開発」だ。大陸棚の議…

「日ソ漁業条約の成立」

「日ソ漁業条約の成立」p. 133-149 日ソ漁業条約は国際政治の分野でも論文があって一度読もうと思ったがそのままである。 小田論文がここでも、日米加北太平洋漁業条約、日中民間漁業協定に並んで、日本が締約国の公海自由の蹂躙を自ら是認したものである、…

日中民間漁業協定の成立

ビキニ水爆実験の国際法的議論に関心を持ってなんとなく手にした、小田滋『海洋の国際法構造』(有信堂、1956)。他の章も面白く読み進めている。 「日中民間漁業協定の成立」戦後間もない、1950年代の日中間の海洋問題、特に漁業問題を扱った小論だが、これ…

もう一つの9条 ー 「公海漁業の規制」

小田滋『海洋の国際法構造』(有信堂、1956)の第3章は「公海漁業の規制」。 海洋漁業の国際的規制について 日中民間漁業協定の成立 日ソ漁業条約の成立 の3節から構成されている。 「海洋漁業の国際的規制について」では、現在の排他的経済水域の200海里…

「李承晩ラインの違法性」- 小田滋『海洋の国際法構造』より

引き続き、 小田滋『海洋の国際法構造』(有信堂、1956)を読んでいる。第2章領海制度の構造の2つ目の論文は「李承晩ラインの違法性」だ。竹島問題にも連なる話である。 一番興味深かったのが一方的公海への拡大を、韓国だけでなく、ラテン・アメリカ諸国も…

人種 ー 国際法学と生物学の溝?

フランス憲法から「人種」という言葉が削除されることいになることを周囲に話したら「ヒドイ!」という反応で面喰らっている。 それよりも現在勉強中の国際法だ。院生ですら「人種」という言葉自体が科学的根拠がないことを知らない。怖くて教授には聞けない…

領海制度の構造 ー 小田滋『海洋の国際法構造』(有信堂、1956)

小田滋『海洋の国際法構造』(有信堂、1956) 1954年のビキニ水爆実験の国際法的な議論がされているので手に取った本だが他の章も興味深く、というか海洋法を学ぶ上で基本的な議論として知っておくべき内容だと思われるので、そのまま読み進めている。 第2…

現在の海洋法の原点は日本の漁業?

小田滋『海洋の国際法構造』(有信堂、1956)の第1章は公海の自由。 ここに衝撃的な数字があった。戦後日本漁船が韓国、中国、ソ連に拿捕された数だ。P. 6−7 1955年までに韓国に拿捕された日本漁船は213隻、乗組員2769名 1954年までに中共政府に拿捕された…

ビキニ水爆実験は「自由世界」の「安全」のため

10. ビキニ水爆実験をめぐるマクドーガル氏の理論p.250-266 第5章「公開における水爆実験」、小田滋『海洋の国際法構造』(有信堂、1956) 1954年3月のビキニ水爆実験については日本国内で多くの議論があったが、翌年1955年から外国の論文も増えてきた。日…

ビキニ水爆実験は合法

小田滋『海洋の国際法構造』(有信堂、1956) 田中則夫先生先生の海洋法の本に、公海での核実験、ビキニ島について国際法の議論があるというので手に取った。本が出版されたのが、ビキニ島核実験1954年(昭和29年)の2年後ということもあり、国際法の議論だ…

マルタと海洋秩序、そして北朝鮮

www.jiji.com マルタのムスカット首相が来日。安倍総理と海洋秩序について会談したとのニュース。 マルタと言えば、北朝鮮、マネーロンダリング、便宜置籍船ビジネスと「法の支配に基く海洋秩序」という言葉に違和感を覚えてしまう国家だ。怪しい主権ビジネ…

皇太子殿下の瀬戸内海研究

厳島と広島を訪ねた。 瀬戸内海の海をみていたら皇太子殿下の研究を思い出して読みたくなった。日本人はこういう方を天皇に迎える幸運を感謝すべきだ。私も博士となったので皇太子殿下のご研究を評価させていただく事も許されるであろうか。 研究資料に対す…

古屋圭司議員との出会い

国会議員の方達には毎日ある勉強会の一つだと思うが、私にとっては一生に一度あるかないかの議連勉強会での講師依頼であった。 このブログや月刊正論の記事を見ていただいた山田宏議員事務所から海洋議連の勉強会での講演を依頼されたのが昨年の3月。何かの…

読書メモ『実践国際法』小松一郎著(信山社、2011)

以前読んだ『国際法の実践』小松一郎大使追悼(信山社、2015年)が難しかったので、小松一郎氏が書かれた『実践国際法』は図書館で借りたまま開かないで返却日が来てしまった。 『国際法の実践』小松一郎大使追悼、信山社、2015年 - やしの実通信 開かなかっ…

尖閣接続水域を通過した中国の病院船はどこへ?

eng.mod.gov.cn 先日、尖閣諸島周辺の接続水域を通過した中国の病院船。パプアニューギニア、バヌアツ、フィジー、トンガ、コロンビア、ベネズエラ、グレナダ、ドミニカ、Antiqua and Papuda、ドミニカ、エルエクアドルを訪問し、チリの海軍創設200年記念式…

読書メモ『海洋ガバナンスの国際法』瀬田真著

2つ目の博論のテーマは「国際的海洋ガバナンスにおける太平洋島嶼国の役割 ̶BBNJの協議を巡る太平洋島嶼国の海洋政策 ‒」 「国際的海洋ガバナンス」についても議論が必要であると指導教官坂元教授のコメントがあり、急遽『海洋ガバナンスの国際法』(瀬田真…

トランプ大統領、オバマの海洋政策破棄(追記あり)

6月19日、トランプ大統領の大統領令がまた出ました。 今度はオバマ時代に役人が作った海洋政策を無効に。エネルギー開発、 漁業・経済発展に重点を置いた政策策定指示。 Executive Order Regarding the Ocean Policy to Advance the Economic, Security, and…

無鄰菴にてー持続可能な日本庭園

山縣有朋が、京都東山に疎水を引き込んだ日本庭園を持つ別荘「無鄰菴」を作ったのは1894−1896年。今、植彌加藤造園が管理している。 夕暮れの「無鄰菴」で蛍を見る会があり、植彌加藤造園の方(女性)と話す機会があった。 私が京都にいるのは同志社大学で海…

島サミット特集:北朝鮮を支える太平洋島嶼国の便宜置籍船

今回の島サミットが画期的だった理由の一つにこのブログでは散々取り上げている、太平洋島嶼国の主権ビジネス、その中でも北朝鮮を支援している便宜置籍船の件が首脳宣言に明確に書き込まれたことだ。下記の部分である。 「特に,首脳は,いわゆる「瀬取り」…

島サミット特集:安倍総理スピーチの分析評価ー歴史的海洋の権利

「これから力を入れたいのは、第一に、海の秩序に法の支配を打ち立てることです。古来、私たちの海の恵みをもたらしてくれた太平洋。その太平洋で我々が昔から持っている権利を、国の大小に関わりなく守ってくれるのが法の支配です。」 英語では "Where Japa…

SDGsのフェイクな海洋問題ー世銀に水産資源を教示せよ!

SDGs 持続可能な開発目標。 2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs) の後継として,2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030 アジェンダ」 2016年から2030年までの国際目標。 (外務省のサイトからhttps://www.mofa.go.jp/m…

山中仁美『戦間期国際政治とE・H・カー』(2017年 岩波書店)読書メモ

山中仁美『戦間期国際政治とE・H・カー』(2017年 岩波書店) 1. 同書を選択した背景 私の博士論文のテーマは太平洋島嶼国と海洋の管轄権の問題である。数千から数万人の人口を持つ太平洋島嶼国の主権国家として存立基盤が「自決権」である事は明確だ。博士…

島サミット特集:フォローアップ提言

前々回の第6回島サミットに「海洋問題」と「米国の参加」が入ったのは私が提案したからである。当時の大洋州課課長(確か飯田さん)がわざわざ連絡をくれたのだ。 (具体的に書くと笹川会長の名前で、財団として出したかったのだが、当時の国交省元審議官の…

第三期海洋基本計画と「霞ヶ関ルール」(追記あり)

昨日、同志社大学の坂元茂樹教授の国際法の授業で「霞ヶ関ルール」と言う日本政府の悪い体質を形容する言葉が出てきた。 国際会議などの日本政府を代表する場でさえも、省庁間の権益を乗り越えられず、日本に対する誤解と不審を世界にばらまく行為である。 …